このようなことをやり遂(と)げるような男であったか?

いや、知らぬ。

考えても考えても、何処(どこ)にも答えは見つからない。

さらなる理解不能な状態に陥(おちい)り混濁(こんだく)の波に呑まれそうになりながらもディアーナは生前のルシフェルの一つ一つの挙動(きょどう)について、記憶の欠片(かけら)を拾い始めた。

✥ ✥ ✥

私はお前の真実も何も知らなかったということか。これは、来世の約束をした者同士がやることだ。お前は永遠に私の配下でしかないはずなのに。

はっとする。

まさかこれが「すでにもらった褒美」だと?

・・・そんな馬鹿な!

先ほどから痛み出していた胸の紅薔薇の痣が、さらにズキズキと熱を持ち肥大し大きく開花し始めた。(了)

 

✥ ✥ ✥

水鏡の前に立ち尽くす玉響(たまゆら)は、沈静した水面(みなも)に映し出された色鮮やかに燃える紅色を沈痛な面持ちで食い入るように見つめ、茫然自失(ぼうぜんじしつ)としている。

玉響の灰紫色の潤(うる)んだ瞳に浮かぶ紅薔薇は、華やかな大輪へと開花し始め、いまにも零(こぼ)れ落ちそうな涙で揺らいでいる。

瞬(まばた)きをすればきっとそれは闇夜の幻と化してしまうのだと、玉響は熟知していた。

触れたことのない紅薔薇に、息をこらし注意深く、そして遠慮がちにそっと手を伸ばした。

細く白いしなやかな指先はその外輪(がいりん)に触れると、一気にそれを掬(すく)い上げた──。(了)


※双異眼…筆者の造語。虹彩異色症。

※※蔦の花言葉…「永遠の愛」「死んでも離れない」。

 

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