【前回の記事を読む】「年収1,000万円も可能!」不動産業の魅力を熱く語る男に「じゃあなぜ辞めたんですか?」と尋ねてみた

一つ目の教え

「はい。あ、あの、最後にもうひとつお伺いしてもいいですか?」

「なんだい?」

こんなこと聞いてもいいのか不安になりながらも、僕は意を決して質問することにした。

「……何カ月くらいで売れるようになれますか?」

「ぷっ、がははは。逆に聞くけど、斎藤くんは売れるようになるのに、何カ月かけるつもりなの?」

僕は固まってしまった。しばらく考えてから、「できるだけ早くがいいです……」と答えた。

「うーん。いいかい? 物事を習得するのにかかる期間を決めるのは、俺じゃなくて斎藤くんだよ。現在地からゴールまで一〇〇kmあるとするよね? それを一日に一kmだけ進むのか、一〇km進むのかは本人次第なんだよ。

この地球上にいる人たちに与えられている時間は、みんな平等に二四時間だよね。じゃあ、売れる人と売れない人の違いは何だと思う?」

「……時間の使い方、ですか?」

「そう!」

「なるほど。たしかにそうですよね」

「遊んでいる暇はないよ」

帰りの電車の中、僕は気持ちが昂(たかぶ)るのを抑えるのに必死だった。今まで営業が楽しいと感じたことはあまりなかったけど、営業ってこんなに楽しいものだったんだ。営業論について生き生きと話す金光さんが眩しくみえた。僕もいつかあんな風に楽しく営業をできる日が来るのだろうか。

実践

案内は一〇時からだ。

いつもより早く目が覚めた。ジャージに着替えると、僕は近くの公園まで散歩することにした。昨夜はあまり眠れなかったが、あまり眠気は感じない。それよりも、気分が昂(たかぶ)って落ち着かなかった。

玄関のドアを開けると、朝の新鮮な風がふわりと顔を洗い、新しい一日を告げた。僕はゆっくりと大きく伸びをし、二回深呼吸した。マンションの一階にある自動販売機で缶コーヒーを買い、飲みながら昨日あった出来事を頭の中でドラマを再生するように思い返した。

堀江にあるおしゃれなオフィス。優しいお香の匂い。壁一面にある数々(かずかず)の書籍。そして一生懸命に話してくれる金光さん。