そう話しながら不思議な気分だった。どうして初めて会ったこんなに歳の離れた女性に、今まで他人に話したことがない話をしているんだろうと夏人が考えていると、

「私も将来はやっぱり絵本作家など絵を描くことを仕事にしたいので、いろいろと教えていただきたいです。連絡先を交換してください」と摘菜美が言う。

夏人はSNSを使わないのでメールアドレスが記載された名刺を渡したところ、摘菜美はメールを使っていないので、あとでアカウントを作って連絡しますと答えた。そろそろ出ようということになった時に摘菜美はここにもう少しいて友達に連絡しますと言って残った。

夏人が計算書を持って先に席を立つと、摘菜美は立ち上がって、私からお誘いしたのにすみません、ご馳走様ですと言ってお辞儀をする。夏人は、彼氏と待ち合わせでもしているのかなと少し気になった。

夏人にとって今日は不思議な日だった。20歳以上歳が離れた女の子と銀座T&Cを見下ろすカフェで話をしていたのは楽しい時間だった。自分が若返って恋人とデートしているような錯覚すらあった。連絡先を交換したのでこれから時々会えるのかな。

夏人はこれから人を好きになりそうな気持ちを思い出した。夕海と別れてから長い間感じたことがなかった気持ちである。一方ではこんなに歳が離れている会ったばかりの女性を好きになるかも知れないなんて、どうかしていると思った。

銀座からいつものように銀座線に乗って渋谷で山手線に乗り換えて新宿でさらに乗り換えた夏人は高円寺にあるアパートに帰った。夕海と付き合っていた頃に住んでいたこのアパートにずっと住み続けている。

新しく1歩を踏み出すためには引っ越しする方がいいと思いながら、高円寺が好きで、引っ越しが面倒だということもあり、そのままにしている。20年前、夕海は吉祥寺のアパートに住んでいたが、よく夏人のアパートに来て食事を作ってくれたり泊まったりしていた。2人の間では一緒に住む方が経済的だろうという話もしていた。

夏人は今日会った摘菜美という若い女性の姿形を思い出した。そして彼女とあのアパートで一緒に住むことを一瞬考えてしまったが、すぐに自分で自分の考えを打ち消した。そしてそんなことを考えてしまう自分に戸惑っていた。

「歳が20以上離れている。でも俺はあの子のことを気に入った、もっと正直にいうと、好きになったのだろうか?」

 

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