元カレから、突然のビデオ通話が…
大学時代、私には同い年の彼氏がいました。
それまでの私は恋愛とは無縁でしたが、彼のまっすぐすぎる誠実さと、ほんの少しの好奇心から付き合うことになりました。それからは彼と映画へ行ったり、ラーメンを食べに行ったり、今では考えられないくらい充実した日々を送っていました。
けれど就活が始まる少し前に、私は彼から別れを告げられました。
「なんか、恋人って気がしないんだよね」
「だから、友達に戻らない?」そうして彼氏は、元彼になりました。
そこからは私は就活、元彼は院試で忙しくなり、直接会う機会がかなり減りました。しかしLINEはほぼ毎日やりとりしていたので、特に寂しかったとか辛かった気がしませんでした。
それから5年が経ったある日、元彼からLINEで「何か病気になったから近いうちに入院する」という連絡が来ました。当時の私は転職活動に忙しく、「ふーん。そうなんだ。お大事に」くらいにしか思っていませんでしたが、彼は骨髄性白血病を発症していたのです。
元彼の入院から半年後、私は数日後に控えた面接の練習をしていました。
そのとき、元彼からLINEのビデオ通話がかかってきました。文章でしかやりとりしたことがなかったので、妙だなと思いました。
けれど私は人前に出られるような格好ではなく、一度その通話を無視してしまいました。
着信音が鳴りやんだ後、元彼から“いつもと同じような”連絡が来ました。その時の内容は今でも忘れられません。
『ビデオ通話したい』
『今、パジャマなんだけど……着替えてきていい?』
『いや、今じゃなきゃダメ』
『だからパジャマだって言ってんだろ』
『それでいいから』なんやかんやで私と元彼はビデオ通話を始めました。そういえば彼の顔を見るのは数年ぶりでした。
最初に出てきた画面で私は思わず息を飲みました。
白い病室。たくさんの管。それでも元彼は、ベッドの上で昔と変わらぬ笑顔を浮かべていました。そして何でもない雑談をした後、彼は改まって言ったのです。
『君にどうしても伝えたいことがあるんだ』
『俺は結局自分の夢を叶えられなかった』
『でも、君は、君だけは自分の夢を絶対に叶えてくれよ』絶対に叶えてくれよ、と彼は念を押すように言った。
彼はずっと、作家になりたいと言っていました。改まった彼の様子が気恥ずかしくて「当たり前じゃん」などと軽く流して話を終わらせてしまいました。
そうして最初で最後のビデオ通話が終わりました。
1週間後、私は面接を無事クリアし、再就職することができました。その連絡を元彼にしようとしたその時でした。
『●●君(元彼の名前)は昨日お亡くなりになりました』
大学時代の友人からの連絡でした。
私はその一文を最初信じることができませんでした。あの時出たビデオ通話の元彼があまりにも元気すぎたからです。
その後、泣いたかどうかは覚えていません。
翌週、私は元彼の葬式に行きました。
彼が亡くなって何年も経ちますが、私はまだ自分の夢を叶えていません。
いや、もしかしたら一生叶わないのかもしれません。あのとき、彼が私に託してくれた思いをもっとちゃんと受け取ればよかったと後悔しています。
連絡をくれてありがとう。仲良くしてくれてありがとう。伝えたい言葉はたくさんありました。
今でも彼は、私にとってかけがえのない大切な人です。
皐さん(30代・女性)
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