1 憂いの卒業式
無窮に無音で降る雪にただ息を整え、瞼を閉じる。そうすると五感のすべて、つま先までの全細胞が、その白い結晶の奥から湧き上がる底知れぬエネルギーを感じとれる。
それは雪国に生きる者のみが知る、命の源に触れる特別な感覚だ。
山形県尾花沢市は、雪と共に生きることを宿命づけられた地である。
尾花沢に降る雪は人々の心を研ぎ澄まし、柔らかな雪の下では次の春が待っている。
静寂の中、湖面は天空を映す鏡となり、徳良湖(とくらこ)は凍てつく。この湖はかつて干ばつの苦しみから人々を救うために造られた。
その水辺では先人が苦難の歴史を乗り越え、やがて花笠音頭が誕生し、ここに住む人々の強い意志は今もなお受け継がれている。
2020年2月27日。阿藤晋一首相が、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、3月2日から全国の小・中・高校などに臨時休校を要請すると表明。
多くの学校で卒業式は中止、もしくは規模を大幅に縮小して行われた。
それから1年後の2021年3月。
静けさに包まれた教室に、山形県立尾花沢高等学校教諭、大類誠司の声が響き渡り、黒板には色とりどりのチョークで書かれた「卒業おめでとう」の文字が踊っている。
明日の夕方には消されてしまうだろうが、一時の華やかさがこの空間の寿命を告げているようだ。
「明日はいよいよ卒業式です。でも、明日は絶対に泣きません」
大類が言うと、生徒たちからは「本当ですか」とからかうような声が上がった。
「明日はみんなを笑顔で送り出したい」
大類がゆっくりと語る。
この1年間、生徒たちは経験したことのないパンデミックの中で青春の多くを奪われた。
大類は約100年前の世界を襲ったスペイン風邪というパンデミックを、先人が乗り越えたからこそ、今があることを力強く伝えた。
「皆さんは、よくこのマスク時代を生きました。こんなこと、私の学生時代に経験はしていません。この経験を乗り越えて卒業する皆さんを心から尊敬します。ありがとうございました」
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