例えば、大股で足早に歩く恭平に対し雅子なら、
「こら、恭平。短い脚でチョコマカと歩くんじゃないの!」と、笑って叱るだろう。
一方で淳子は、息を弾ませながらも黙って懸命について歩くだろう。
恭平はそんな違いを妄想しつつ、会ったばかりの淳子に穏やかな愛おしさを感じ始めていた。
冬の短い日が暮れ、新宿御苑を閉め出された二人は、ジングルベルの鳴る新宿の雑踏を当てもなく歩くうちに空腹を覚え、中村屋でカレーを食べ、淳子を送るため荻窪駅までの切符を買っ
た。そして事件は、荻窪の駅前で起こった。
ダッフルコートのポケットに両手を突っ込んで歩く恭平と淳子は、肩が微かに触れる、程好い距離を保ちながら歩いていた。
前方から四人の酔っ払いが、蛇行し、放吟しながら近づいて来た。擦れ違いざま四人のうちの一人が、左手を伸ばし淳子の胸を撫でて喚いた。
「ちぇ、残念、Aカップだ」
他の三人が大声で笑った。その笑い声が終わらぬうちに、恭平は淳子の横を擦り抜け、男の後ろ首に力任せに拳を叩きつけた。
「本川さん、止めて!」
淳子が絶叫するのと同時に、恭平は背後から思い切り男の膝を蹴りあげると、男はもんどりうって倒れた。他の三人の男が口々に怒声を上げ、恭平に突進して来た。
体勢を低くして、真ん中の男の鳩尾(みぞおち)に頭突きを噛ませた恭平は、勢い余って一緒に倒れ込み、起き上がろうとする恭平の腰に右側の男が抱き着いて来た。振り解こうともがくうちに、右手を掴まれ動きのとれない恭平の顔を、最初に蹴り上げた男が殴って来た。