【前回の記事を読む】カートを引きずって峠を行く男性…聞くと、この状態で昨日は70キロ、一昨日は90キロ歩いたそう。何故そんなに歩けるのか聞くと…
第三章 伊予 菩薩の道場 山ばかり、でも人が優しい
25日目 2024年10月13日(日)
しばらくは調子よく歩いていたが、その元気もあっさりと影を潜める。トイレに行きたくなってきたのだ。しかし、あるわけない。ここは峠だ。民家すらない。朝、宿を出てからもう4時間以上が経つのに、店も民家もなんにもない。薮に入って、してしまおうかなと考えはじめたその時、まだ数百メートル先だが産直市場っぽい場所があるようだ。トイレもある。
薮に入らなくて良かったと急ぐが、限界に来ている状態では早歩きもままならない。あぶら汗タラタラで到着すると、トイレも自販機もベンチもあるではないか! 歩き遍路をしているとたったこれだけのことがものすごく嬉しいのだ。天国だ。
30~40分休んだだろうか、もうメンタルはボキボキだし、歩きたくないが、札所はまだ8km 先。じっとしていても誰かが連れて行ってくれるわけではないので、峠越えでパンパンになった足を引きずって歩きだす。
13時頃、やっと40番札所を打って、境内の木陰のベンチでボーッとしていたら、お参りが日課だというおじいちゃんが話しかけてきた。「こりゃまた細っこい女のお遍路さんやな。歩きで回ってるの?」「はい。お遍路は過酷ですね」と言うと「ほうちゃろ~、むか~しはたくさんの遍路が死によったきね~」と言う。
おじいちゃん曰く、「昔は行き倒れた遍路を穴掘って埋めてやったらしいがよ」と言う。この話は先日高知で、お接待を受けた雪寿庵のおじさんも言っていた。やはり本当のことらしい。道端で息絶えた人を弔うなんて、究極のお接待だと思う。
しばらくおじいちゃんと並んで涼んでいたら、「そいでは、私はこれでご無礼するき」と立ち上がりながら、肩掛けにしていたカバンから麦芽飲料をくれた。お接待だ。納め札を受け取ってもらい、ありがたくいただいた。
さて、あとは宿まで2km。そうしたら休めるとラストスパート……が、たった2kmを一気に歩けないダメな私。途中に出てきたローソンで、トイレを借りアイスコーヒーを買い、店の外の日陰で座り込む。「あ~足疲れたぁ~」とダメ人間っぷりを発揮していると、目の前に軽自動車が入ってきた。
お花の付いた帽子を被り、真っ赤なエプロンをしたお母さんがそそくさと入っていった。なかなか腰を上げることができず、壁に寄りかかって空を見ていたら、「お遍路さん? 歩きですか? どこから来たの?」と声をかけられた。さっきのお花帽子のお母さんだった。
雑談を交わしてから、お母さんが何かを押し付けるように私に渡す。速攻エネルギーチャージのゼリー飲料を私に渡すと、「すごい疲れた時に効くき」と笑ってる。「私も主人も歩き遍路さん見ると嬉しくて! 頑張って歩いておられると思うと私も頑張らんとって思えるやろ?」という。
私もやたらと嬉しかった。私の渡した納め札を嬉しそうに、大事そうにお財布にしまって、軽自動車で走り去っていった。エネルギーチャージのドリンク、きっと私のために買ってくれたんだと思った。ありがたい。心が温まると、疲れきった身体すら動くものなんだと実感していた。
四国の皆さんは歩き遍路に優しい。今夜の宿きさらぎさんに時間通りチェックインして、今夜も無事にお風呂と食事とお布団にありつけます。感謝!