「御幸くん、お久しぶり」

病棟へ入ると、担当の看護師さんが声をかけてくれた。自分と数歳しか変わらないはずなのに、迷いなくテキパキと動く彼女の姿には、いつも思わず感心してしまう。

「お久しぶりです。大学やアルバイトの方が少し立て込んでしまって……」

僕がそう返すと、彼女は柔らかく微笑んだ。

「妹さんも、きっと喜んでくれると思いますよ。さあ、こちらへ」

彼女に案内され、妹の瑠璃のいる場所まで歩を進める。

「瑠璃ちゃん、お兄ちゃんが会いに来てくれたよ!」

看護師さんの明るい声に促されるようにして、僕は妹の姿を視界に入れた。

「…………」

そこには、ただ静かに横たわる妹がいる。

僕は大学に特待生として通っているため学費の負担はない。下宿代も最低限に抑えている。その上で、毎日のようにアルバイトに明け暮れている。それなのに、僕の手元には一向にお金が残らない。

稼いだ金額のほとんどは、目を覚ます保証さえない妹の月々の治療費へと消えていくからだ。

「たった一人の血の繋がった家族なんだから支え合いなさい」

母の遺言を守り僕は自分の生活を切り崩して妹を支えている。

世間の人々は、僕のことを『妹想いの優しい兄』という美談の枠に当てはめて見てくる。看護師さんのあの温かい眼差しもきっとその一つだろう。

だが、僕は自分のことを一度も優しいなどと思ったことはない。

瑠璃の寝顔を見つめていると、胸の奥からせり上がってくるのは、献身とはほど遠いどす黒い感情ばかりだ。