そしてある日、夫はテレビを見ていた時に、アルコールを飲むことを思い出した。

「ヘンリーはまたお酒を買ってくるようにわたしに言ったの。わたしは断ったけど暴力で脅されたから仕方がなかったわ。なけなしのおカネをはたいて小瓶に入った安ウイスキーを五、六本買ってきたわ」

「その頃わたしは不自由な体になって思うように動けなくなっていたのね。もう働けないから家計は火の車だし精神的にも限界だった。どうしようもない袋小路に落ちたわたしは、友達にどうしたらいいか聞いたのね。

すると『市役所に行けば相談に乗ってくれるのではないか』と言われた。市のソーシャルワーカーが訪ねてきて事情を説明すると、その職員は夫を説得し、アルコール依存症の治療をしてくれる精神障碍者向けの老人施設に入れてくれたの」

「背負い切れない荷物は無理して背負わなくていいのよ。そういう時は助けを求めていいの。誰かに『助けて』って声に出して言うことが大切なのよ」

お婆さんは、その職員の言葉を聞いて気持ちが楽になった。そして自分でできることはちゃんとしようと思った。

夫は施設の中で二度と酒を飲むことはなかった。マーガレットお婆さんは夫の敗残者のような姿を見て、力なき夫にとって擦れ違う屈強な男はすべてが悪魔のような存在に見えるのかもしれないと思った。

「週に二、三度は夫に会うために施設に向かった。タクシー代がかかったけど……。ある日の朝から夫は完全に絶望し起き上がれなくなった。そして他者に対して従順になったの。でも、それは衰弱の始まりだったのね。夫の体は自分の意志によって動かなくなった。自力でトイレに行けない体になった」

夫が家には戻れない施設の人になったため、マーガレットお婆さんは住んでいる家のただ一人の住人になった。

「まず部屋をきれいに掃除したの。定期預金と保険を解約し壊れた家具を新調したわ。お手頃価格の品物だったけど壊れたままよりずっと良かった。別の家のようになるまで模様替えをしたの」

 

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