その一言を口にした瞬間、相手の瞳の奥で色が、温度が変わるのがわかる。

羨望、嫉妬、あるいは驚愕。向けられる視線の種類は様々だが、どれも『ありのままの平御幸』を見ているものではない。

「東大生なら天才だね」

よく言われるその言葉に、僕はいつも曖昧な笑みで返す。

同じ学舎(まなびや)には、確かに真の天才と呼べる人間もいるだろう。けれど僕は違う。母の呪縛に突き動かされ、配られた教科書が擦り切れるまで、一文字も残さず理解しようと努めただけだ。その血の滲むような積み重ねに対して他人は『天才』という便利な言葉で片付けてしまう。

「ただ教科書を覚えただけですよ」と冗談めかして答えても相手は面白そうに笑うだけだ。

東大生なら、何でもできて当たり前。

成功すれば「東大生だから」と言われ、アルバイトで一つ失敗すれば「東大生なのに」と失望される。

僕だって一人の人間だからできないことも、わからないことも、人並みにある。それを乗り越えるために努力だってする。だが、世間の人々は僕の努力(プロセス)を見ず、東大というブランド(結果)だけを見て判断を下す。

その色眼鏡越しの視線に、僕は言葉にならないもどかしさを抱え続けている。

だから、僕は大学の話題が好きではない。共に働く大学生のアルバイト仲間たちとも、大学の話はしないように心に決めている。

深夜、勤務終了を告げる看板が片付けられる。

他の同僚たちが足早に夜の街へ消えていく中、僕は最後の手直しを終え、制服を脱ぐ。そこへ、店長が静かに歩み寄ってきた。

「平くん、今日もお疲れ様。……これ、いつも頑張ってくれているから、臨時ボーナスだ。受け取りなさい」