【前回記事を読む】父に借金を押し付けられた母。昼夜問わず働き、身体を壊してもなお「私が悪い」と自分を責め続けていたその理由は…

一万円で君と会いたい

起 呪縛

本当は僕だってボウリングで騒いだり、朝までカラオケで喉を枯らしたりしてみたい。何の計算もなく、ただ20歳の青年のように無責任に夜を使い果たしてみたいのだ。

仲間の誘いを断るたび、心に小さな、けれど消えない傷が増えていく。

遠ざかる仲間たちに「ありがとう」と手を振り返して僕は一人、風に煽られながらいつものアルバイト先へと向かった。

品はないが活気がある。

僕のアルバイト先を一言で表すならこれがしっくりくる。

この店には、学生から仕事帰りのサラリーマン、時には会社の経営者まで、多様な人々が境界をなくして集まってくる。お客様との距離が近く、様々な人生の断片を聞かせてもらえることが、僕にとってこの場所の大きな魅力だった。

出勤してまず取りかかるのは、掃除だ。

「室内の汚れは、心の汚れ。お客様に失礼のないよう、まずは自分たちの心を磨きなさい」

それが店長の信条だった。飲食店という理由だけでなく、その教えを僕は大切にしている。

開店前までにキッチンやテーブルの隅々まで、埃一つ残さないよう磨き上げる。床を鏡のように磨き、自分の顔が映るほどになったとき、ようやく僕の心も凪を取り戻すような気がした。

接客中にお客様と会話が弾むと決まって大学名を聞かれる。

「東大です」