【前回記事を読む】抗がん剤に点滴…愛猫の治療は、いよいよ最終章だった。肩甲骨をつまんで薬液を入れられる姿を、目に焼き付けた。
悲しみの底で見つけたもの~猫さんが生きた八十九日間の記録
四月三日(木)
朝の飲水は少しだけだった。食欲も無いのでウェット食をミキサーで潰してシリンジで与える。久々に窓辺に登ってくれた。きっと元気が出て、外のカラスを追い払おうとしてくれたのだろう。
そう言えば、彼女が窓辺に立たなくなってからカラスの鳴き声が増えたような気がする。きっと連中もうちの猫さんを警戒していたが、弱ってきたので甘く見て寄ってきたのだろう。
再びカラス退治に立ち上がった猫さんを見て心が震えたが、一方で最後の力を振り絞っているのではと心配にもなる。でも活気はあるなと自分に言い聞かせ、気分良く仕事に向かう。
観察しているとジャンプの回数もちょっと増えたように思える。
実は、猫さんに謝らなければならない事があった。彼女はカラスに対してとても敵意を持っていて、カラスの声が聞こえるとすぐに窓辺に登っていた。
そんな猫さんを見て、私はカラスの生態に興味を持った。街中に生息するのはハシブトガラスとハシボソガラスで、前者が多いらしい。
猫さんが健康な時、二種類のカラスがどう違うのかと、YouTubeで鳴き声を比較していると、彼女の目が突然鋭くなり、周囲を落ち着きなくキョロキョロと見回し、ついには窓辺に登っていた。動画だと気づいていない様だった。
この反応が面白くて何度か猫さんを騙していた。今となっては、悪かったと思う。それと同時に、彼女は一生懸命に家を守ってくれていたように思え、胸が熱くなった。
きっとカラスが家に入り込まないように見張っていたのだ。いつもそうだった。彼女は私に背を向け、部屋の入り口や、玄関、窓辺をじっと見ていた。その後ろ姿に彼女の優しさと頼もしさを見ていた。私は幸せだったのだ。
午後からの食欲は旺盛になり、飲水もしっかりする。昼寝は多いものの、栄養はシリンジ食やちゅーるに合わせると250キロカロリーも摂れた。こんなに食べたのはいつ以来だろう。
夜、初めての自宅点滴を行った。私が猫さんの背後に正座し、彼女の腰を私の股の間に挟む。
妻は猫さんの正面に座って動かないように前脚のつけ根(肩?)を手で押さえる。病院や動画で見たようには上手く行かない。皮下のスペースが小さくて力いっぱいシリンジを押しても薬液が入って行かないのだ。
動物看護師や獣医師はこんな重労働を毎日やってくれていたのかと思い、心の中で手を合わせた。
本当は120ml入れたかったが、針がずれて猫さんが痛がるそぶりを見せたので、半分で止めた。この日二回目の抗がん剤内服もあった。水分は飲水190mlに点滴60mlの合計250mlだった。