【前回の記事を読む】前日の夕方まで普通に連絡を取っていた部下……翌朝、従業員から連絡が入り、会社へ急ぎ駆けつけると、そこには脚立とロープが残されていて…

自殺・不渡手形・倒産

勝也が中学を卒業した頃に母親から聞かされた話だが、勝也の実の父も自殺で亡くなっている。かなりの借金があったらしく、保険金で借金を払うようにと遺書を残し、自殺したそうだ。聞こえは良いようだが、勝也は無責任にしか思えなかった。勝也の実の父親も自殺、本当の弟のように可愛がっていた従業員も自殺。

色んな想いや悩みがあるだろうが、やはり自殺は無責任過ぎる。勝也は食事も喉を通らない、人とも会いたくない日が続き、1週間程、家から出られなかったが、残っている従業員達が勝也を支えてくれた。いつまでも考えていられない。勝也にも家族があり、そして従業員達も頑張ってくれ、またその従業員にも家族がある。こんなところで止まっていられない。

右腕だった彼が自殺したが、それまで頼りなく思えていた従業員がどんどん逞しくなり、勝也を励ますかのように頑張ってくれた。仕事も時間も待ってくれない。頑張るしかない。勝也はがむしゃらに仕事をした。しかし、この頃から恩師の息子の会社が暇になってきていた。

仕方なく同業者の下請けなどで食い繋いでいた矢先、勝也が工場を借りていた客先の会社が倒産した。

勝也は小切手に手形、そして売掛金と全てを失った。小切手と不渡手形だけで 830万円。売掛金を入れると1000万円を軽く超えていた。

当時27歳と若かった勝也は、精神的にかなりのダメージを受けていた。右腕だった従業員を亡くし、お金までなくなり、生きている心地がしなかった。

ここで支えてくれたのが紗香だった。「女は強し」と言うが、その時は本当に強いと思えた。江美も「お金なんかどうにでもなる」と言っていた。勝也を励ますつもりで言ったのだろう。しかし勝也にはそうは思えなかった。江美には大した金額ではないだろう。しかし、27歳という若い勝也にとって、1000万円という金額はあまりに大き過ぎた。

勝也はこの会社が手形を出すようになってから不安しかなかった。その内、他社の手形まで出すようになったので、危機感は感じていた。不安だった事もあり、勝也はその手形を他所に回す事も割る事もせず持っていたので、この危機を何とか乗り切る事ができた。責任感の強い勝也は従業員にも下請けの業者にも全て支払いをし、乗り切った。

その客先の倒産から1年も経たない頃だ。恩師の息子から話があり、会社を辞めると聞かされた。ほとんどの仕事がこの会社からのものだったので勝也には衝撃だった。

この息子の会社は倒産ではなく、綺麗に会社を畳む事になったという。勝也はこの2年程の間に従業員の自殺、不渡手形、そして元請け会社をなくす事になった。また振り出しに戻ったのだ。

ついこの間まで人の上に立って仕事をしていた勝也だったが、どんな仕事でもするからと仕事を探し回り、時には自分より若い人に偉そうに言われたり、上から火の粉が落ちてくる場所で真っ黒になりながら1日中掃除をしたりと、なりふり構わず頑張った。

勝也は何となく、自殺を考える人の気持ちが分かるような気がした。車で信号待ちをしている時、隣の車の人が笑いながら電話をしているのを見て羨ましく思う事もあった。

でも、子供はまだ小学生。勝也が自殺なんかしたら家族はどうなるのか? これが無責任だ。自分がしんどいから、辛いからと逃げる行為はだめだ。とにかく子供が成人するまでは頑張る。