【前回記事を読む】迷子センターに掲示された少女の写真。かつて好きだった服に似ていて、顔が私に瓜二つだった。だがそれは55年前の万博の写真で……
『未来行万博開催中』
プロローグ
その日の夜、利佳は鞄の中から、一冊の本を取り出した。今日行った、万博のパビリオンの展示物を解説した本だった。本来、利佳はこの手の難しそうな本は買わない主義だったが、なぜかあの写真のことが気になった。展示物を解説した本を読めば、何かがわかるかも知れないと思い立ち、展示館のショップで二千円近くを出して衝動買いした。
国や企業の名前を冠した斬新な建物、世界各国の踊りに酔いしれる人々、それに駅や大学などでよく見かけるピクトグラムの数々、利佳は本の中のそれらの写真を眺めていて、奇妙な感覚に襲われた。いや、『奇妙』と呼ぶには少しニュアンスが違って、『懐かしい』と言えばよいだろうか。
はるか昔の出来事を記録した写真のはずなのに、利佳にはなぜか、そこに写っているものが、今さっき体験してきたことのように思えてならなかった。
利佳は、本を閉じると、布団に入った。昼間見た光景が、意識と無意識との間を行き来する。昼間、公園の広い敷地を歩きまわった分、疲れが身体全体に押し寄せてきた。気がつけば、深い眠りに入っていた。
第1章 利佳
「悦子、今度の日曜日、万博に行ってみない?」
「万博って、こないだ利佳と一緒に行ったあの万博のこと?」
悦子とは、大学の帰りの電車の中で、偶然知り合った。実はそれまでに、利佳には、付き合っている人がいた。同じ学部の同期生だった。長身で鼻筋の通った精悍な顔つきは、他の女子学生たちと同じく、利佳を一目ぼれさせるのに十分だった。