「ひめみこ、ひめみこ!」

侍女の野須良(やすら)が裳(も)の裾をたくし上げて右往左往するのを、飯豊は板戸の隙間からくすくす笑いながら見ている。

「私はここよ。何をそんなに慌てているの?」

野須良はようやく板戸の前に現れた飯豊の姿を見出すと、息も絶え絶えに言った。

「ただいま父上様からのお使いで、『これより飛鳥の宮に参上するゆえ、飯豊女王も蟻の臣とともにただちにそちらに向かうように』とのことでございます」

「大王の宮へ?」

「なんでも大王の御容体がよろしくないとのこと。お母上とお二人の弟王様もご一緒に向かわれている由」

「大王のお具合が?」

飯豊は、両親や兄弟とは別に、母方の祖父である蟻のもとで養育されていたのであるが、このことがのちに彼女の運命を大きく変えることとなる。

「ということは、久しぶりに父上、母上様、そして二人のかわいい弟王にもお会いすることができるのね!」

野須良の悲痛な表情とは裏腹に、飯豊は大きな瞳を輝かせながら頷くと、支度をするために館の奥へ入っていくのだった。