「天国とか地獄と言っても、それは場所の事ではなく、心の中にあるんだって……」
(浄土(じょうど)といい 穢土(えど)というも 土に二つの隔てなし 己が心の善悪による)

「人が死ぬ間際、走馬灯のように何十年という自分の人生を一瞬のうちに思い出すって言うでしょ。その時に、嫌な思い出、辛い記憶ばっかりがある人は、それを思い出して心が苦しくなる。それが地獄。逆に、良い思い出、楽しい思い出をいっぱい持っている人は心が気持ちよくなる、幸せな気分になれる。それが天国なんだって。

お母さんは、そりゃ辛いこともいっぱいあっただろうけど、それよりも楽しかった思い出、嬉しかった事の方が遥かに多いでしょ。このアルバムがその証拠だよね。そういう人こそが、何よりの幸せ者。人は、死んで天国にいくんじゃない、生きてるうちに天国にいけるって事なんだよ。だから、もうお父さんのこと許してあげようね。そうすれば、それが天国になるんだよ……」

母は、目に海ほどの涙をたたえて「わかったよ」と、私を見つめた。

気がつけば、いつの間にか外は雨になっていた。雪ではなく雨が降るという事は、もう春はそこまで来ている。