長い間一度もこの本のことに触れなかった亡き父に、自分の知らない隠された部分があったのかと驚きを感じた。人生、人に言えない過去のひとつやふたつ、あっても不思議ではないが……。

仕事で家を空けることが多かった父とは会話の機会も少なく、お互いに心を開くこともないまま、六十代半ばで世を去ってしまった。

もちろん、庭園の本を作ったことを話題にしたことなどなかった。ましてや若い頃の話に触れることはなかった。だから古書店で発見したこの本は、これまで隠されていた父の面を知ることができると同時に、父を誤解していた点があったとすれば、改めて父の本当の人間像が見えるかも知れない。

(それにしてもロンドンの古書店で、偶然この本に遇えるなんて。何という巡り合わせなんだろう)

宿命の糸に操られて、ここに引き寄せられたとしか思えない。

表と裏の表紙をめくると、見開きで「見返し」と呼ばれる部位がある。

通常は、無地で厚手の化粧紙を用いるのであるが、この本に関しては特に模様のような印刷が施されていた。ベージュ色の地の上に斜めに引かれた格子の交点の位置に、様々な道具が朱色で描かれている。砂時計、鍵、天秤、コンパス、鐘、水晶玉、ランプ、冠などが皆、抽象化された線画によって表現されている。

俊郎はこの時はまだ、この「見返し」を装丁家による気の利いたデザインとしか考えていなかった。

もう一度奥付を見直してみると、印刷というところに「上海市(しゃんはいし)桂倫(けいりん)印刷所」の名がある。

(上海? これは上海で印刷されたものなのか?)

父が中国に行った話をしたことは一度もなかった。

その時、店の主人らしき男が眼鏡の奥から、ちらちらと俊郎のほうに視線を向けていることに気が付いた。

(挨拶代わりに質問でもしてみようか?)

予想外に高い値札に驚きながらも、希少本を見つけた時のような興奮を抑えながら、奥のレジに持っていった。

「この本を売りに来た人を覚えていますか?」

店主人らしき男は本を手に取って、目を凝らしながら言った。

「ああ、知っているよ」

と店主らしき男が本を手に取って、目を凝らしながら言った。

 

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