ブラワヨへの旅

左腕の時計が午前三時になるのをしっかりと確かめて、時計に向かって誓った。

「これから参ります」

ミカはブラワヨへ向かうため、距離と時間を計って家を出た。あたりは星の瞬き一つ見られない、漆黒の闇である。そして寒い。肌が切れそうに凍てついている。

真一文字に食いしばった口と、歩む先を凝視する目は、いつものミカではない。月も星も無い闇夜は、何もかも暗黒に塗りつぶされたミカの心の闇そのものだった。辛い、逃れようのない現状の発端となった突然の解雇。濡れ衣を着せられて。

「なぜだ。なぜだ。大使館ではいつでも、適当な理由をつけて現地採用のスタッフを解雇する」

「解雇する理由など、何でも良いのだ」

会計官が言っていたことがあった。

天海大使に会ったら、すべてを話そう。そんな思いがミカの脳裏を旋回していた。

歩き始めて一時間、ようやく空が白み始めて、巨木のあちらこちらから朝靄が流れている。この数年間、どんな職業でも良い、何とか生活の糧を得られるようにと力を尽くして探し回ったが叶わなかった。

ブラワヨで国際会議のための仕事を得ることができれば、何かしらその先も見えるような微かな希望があった。そして、何より天海大使夫妻に再会できるのだ。究極の目的がその地にはある。

朝日が差し始めてから数時間、おびただしい日差しが容赦なく体を射し始める。暑い、喉が渇く。手で汗をぬぐい、心が折れそうになるのを怒りで繋いでいた。この道を行かねばならない。ミカは歩みを止めなかった。現在置かれている危機的状態は存在自体の危機である。

歩け。ミカは歩きに歩いた。大きな岩に守られているような村や畑を通り抜けた。歩いて、歩いて、夕陽が落ちようとしている頃、グエルー行きの乗り合いバスが身動きできないほどの乗客と荷物を満載して、重たそうに土煙を上げて通り過ぎて行った。グエルーまではまだ遠い。三日かかる全行程は、今はまだ始まったばかりだ。