【前回の記事を読む】きっかけは「写真は自由に使っていいよ」の一言だった…私のことを「もっと知りたい」と思っている彼らの欲求を満たすために……

前日に本場所で行われた、紫式部と小式部内侍の取組は、立会いで、紫式部が低い体勢でぶちかましを放ち、小式部内侍の膝を抱えるようにして押しまくった。この押し技は、紫式部がここ一番の時に使う技だ。

この技で過去に、二十歳以下の女相撲の大会で、雷子を下して優勝し、右近と初めて取組んだ時も、突っ込んでこない紫式部に対して、焦って廻しを取ろうとした右近を躱(かわ)して、この技で仕留めたのだ。

必死に逃れようとする小式部内侍だったが、紫式部の押しは盤石で一切隙が無かった。小式部内侍は、放り出されるように土俵の外へ押し出された。

館内は、大銀星を取った後のように大歓声になり、煎餅座布団が土俵の上を飛びまくった。

信じられない顔で、土俵上の紫式部を見上げる小式部内侍。土俵から見下ろす紫式部の口元は、微笑(ほほえ)んでいるようにも見えた。

千秋楽当日も曇り空で、午後から雨が降る確率が高いと言っていた。

右近達が、部屋で朝食を摂っている時に、小式部内侍が柊部屋を破門になって、本日の取組は欠場すると道長から聞かされた。

破門の詳細は判らないが、代理の女力士は予備力士として小式部内侍に付いていた、背が高く美人で、西洋人にしか見えない娘だ。

女相撲では関取が欠場しても相撲を楽しんでもらう目的で代理力士が取組むことになっているが、代理力士が出た時点で負けとなるので、本場所で全勝優勝は右近に決まった。

以前に和泉式部から「将来が楽しみなのが、一人居る」と聞かされていたので、今回、代理力士として出る彼女がそうだろうと、右近は思った。

今にも降りそうな天候の中、桜田部屋の四人を乗せた車は大和コロセアムに到着し、女将と道長は特別席へ、右近と明荷を担いだ雷子は、大関専用の支度部屋へ向かった。

支度部屋の扉の前に和泉式部が待っていた。支度部屋の中で、右近達は和泉式部から小式部内侍が破門になった訳を聞いた。

それは、昨日の本場所が終わって、女力士達が柊部屋に戻ってから起こったことであった。

柊部屋の女将が険しい表情で、小式部内侍に詰め寄ったのが発端であった。相撲で紫式部に負けた件を責めたのではなく、抜き打ちで関取女力士に実施されるドーピング検査に小式部内侍が引っかかった件であった。

柊部屋の女将は、検査に引っかからないように、日々、摂取物や薬品には気を付けていたが、小式部内侍が独自に使用していた痛み止めに、該当する成分が含まれていたのだ。

小式部内侍の快進撃も薬物の影響ではないかという疑惑もあるので、本場所出場停止に加え、それまでの結果も無効にするかどうかで女相撲協会内で話し合っているところであった。