北沢はイライラしているというのを露骨に表し、乱暴に新しい灰皿を取り上げた。
そして再び口に新しい煙草をくわえ、カチッとライターで火をつけ始めた。なにごともなかったかのように、フーッと大量の紫煙を藍に浴びせた。
「……も、申し訳ありません」
藍の言葉は、手の痛みを必死に耐え、絞り出すような小さな声だった。
少し長めの髪でその表情は隠れていたが、苦しそうな声が、まるでその青い瞳いっぱいに涙をためて、手の痛みとともにこらえているように聞こえた。
「大丈夫かよ、藍!」
駆け寄った飛鳥が藍の手のひらを見ると、ひどいやけどになっていた。
それでも、
「大丈夫……」
と、答える藍。
そして、やけどをさせられた手のひらをかくすように、ギュッとこぶしをつくった。
そんなことをされてまでも、まだ、「大丈夫」だというのか。
藍がいつも無表情なのは、年のわりに大人だからではないのではないのか。口ぐせのように「大丈夫」と言いながらも本当は、心の中では涙を流していたのではないのか。
そうしていく中で全てに絶望し、自分自身を覆いかくす仮面をかぶってしまったのではないか。
飛鳥の知らない半年間も含め、藍がどれほど北沢の仕打ちに傷つき、心を閉ざすまでになったのだろうか。
そんな風に思った飛鳥は、我慢の限界がきたのか、無意識のうちに北沢に向かっていた。
「大丈夫なんかじゃねーだろ! おい、オッサン! おまえ何てことすんだよ! 藍に何か恨みでもあんのかよ!」
藍のやけどの惨状に激高した飛鳥は、今にも掴みかかりそうな勢いで北沢に抗議した。
藍が何をしたというのだ。
許せない!
学園にいた時は、子どもたちが悪いことをしても職員が折檻(せっかん)することは決してなかった。注意や説教をしたり、あまりにもひどい時は、数時間ほど隔離部屋に閉じ込めて反省を促す。それが学園のやり方だった。
子ども同士のとっくみあいのケンカを目の当たりにしたことはあっても、一方的でしかも陰湿で、こんなひどいケガを負わせるような場面に遭遇したことはなかった。