第1部 金星を目指して
1 「あかつき」金星周回軌道投入の失敗
2010年12月7日、相模原にある宇宙科学研究所の科学衛星管制室は緊張に包まれていた。
日本時間の朝、日本の金星探査機「あかつき」(プロジェクト名PLANET-C)は金星に近づき、逆噴射によってその速度を落として金星を周回する軌道に投入の予定であった。
「あかつき」は日本初の金星探査機として2001年に企画が認められ、その前に行われた日本の惑星探査「のぞみ」(火星探査機PLANET-B)が火星を廻れなかったことから、日本で初めて他の惑星の周回を巡る惑星探査機となる使命を背負っていた。
「あかつき」は金星に近づいていく。逆噴射は金星に最も近づき、減速の効率の良い地点で行われることになっていた。その間、探査機は地球から見て金星の裏側に周り込み、探査機との通信は取れなかった。
探査機が金星の影から現れる時刻になっても、探査機からの信号は来ない。この時点で、管制室は騒然となった。逆噴射の最中に探査機が爆発してしまったのではないか。
約1時間半後に臼田宇宙空間観測所の深宇宙アンテナ 1が探査機からの微弱な電波を捉えた。
この微弱な電波はすぐに受け取れなくなってしまい、臼田から運用を引き継いだマドリッドにあるアメリカNASAの深宇宙局(アンテナ)で受信されるまで、再び「あかつき」の行方不明は続いた。
「あかつき」の見つかった場所は予定されていた金星を周回する軌道の上ではなかった。
探査機「あかつき」は金星を離れ再び太陽を周回していることがわかったのである。
日本初の惑星周回軌道投入はこのようにして失敗に終わった。
1 深宇宙アンテナ
宇宙を飛ぶ飛翔体には地球のそばを周回する低軌道衛星と、地球を離れて月以遠に行く深宇宙探査機がある。後者は非常に遠くにあり、通信には地上に大きな口径のアンテナが必要となる。このアンテナを深宇宙局(アンテナ)と呼び、日本には当時長野県の臼田に口径64mのアンテナがあった。
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