「少なくとも妻であり、あなたの母である私には痛いほどあなたのことは理解できていると思うわ。英介さんあなたが出て行った後も静かに妻の実家で寝泊りしてるの。それこそ耐えられないと思う。
瞳ちゃんあなた英介さんの奥底に入り込むのが怖いんじゃないの。違う? いきなり他人同士が生活しだすんだから山あり谷ありの人生よ。双方の奥深く痛みをともなう所を見ては解決し合っていくのが夫婦というものなんじゃないかなぁとママは思う。
英介さん、瞳ちゃんの帰る場所が無くならないようにと待ってるんじゃないかと思う。こんなこと長く続けていても意味ないし双方のためにもかなり無駄な時間だと思う。明日、土曜日の夕方まで待つ。あなたが帰って来なければ英介さんには家を出て行ってもらいます。勿論、離婚届けにサインしてもらってね。よーく考えてちょうだい。じゃあ」
真奈美は勢いよく席を立ち、その場を去った。
――翌日の夕方、真奈美は英介と応接間で話をしていた。――
「真奈美さんすみませんでした。ご心配をかけて。仕事か家庭……いや瞳ちゃんだと考え今回の結果に及んだ訳ですが……仕事において第一線から退くという経験がなかっただけにどこか悔やんでも悔やみきれない自分もいたんでしょうね。
けど、この一ヵ月瞳ちゃんがいなくなってわかりました。あの人は僕を光輝かせ元気づけてくれる太陽だと。そして僕自身も彼女を支え続け守り続け笑顔を絶やすことなく愛することを……愛していることを再確認しました」
真奈美は怒りを抑えつつ、呼び方をわざと変えて英介の前に立った。
「……何言ってるんですか風間先輩……今さら。時間になっても瞳は戻ってきませんでした。仕事は一流でも家庭に関しては妻も守れず二流三流ですか。人生において一つの山すら妻を背負って超えられないのですか。今後も私の大事な娘を守れないのであればこの離婚届けにサインをして今すぐ出て行ってください。お願いします」
それを隣の部屋で聞いていた公男が驚きやって来た。
「真奈美さん……それはあまりにも冷た過ぎます。二人共結婚したばかりです。一度や二度あってもおかしくはありません」
「パパ、私たちには一度もそんなことなかったよ。違う? 人生の道のりで簡単に妻の手を離すような方に娘を預けるようなことはできないの。わかって」
同じく隣の部屋で郁三が目をつむり腕組みしながら静かに話を聞いていた。
次回更新は6月20日(土)、21時の予定です。
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