【前回の記事を読む】みんなの自己紹介が始まると、月次報告書に部長が何か書き始めた。ひとり終わると、他の出席者からパチパチとまばらな拍手があって…

野望の果てに

大木は「それじゃ、次長の私が三村部長がしゃべらなかった部分を補足しながら自己紹介します。私は大学では三村さんの3年後輩です。卒業してから5年間ほど捕鯨船に乗り機関室を担当して、荒波にもまれる遠洋航海にも同行しましたから、船酔いには抵抗力がついています。

マリンの営業は三村部長が顧客との人間関係が商売で大きな比重を占めると述べましたが、具体的には夜の接待です。一応年間予算を組んでますが、毎年予算オーバーになります。

この業界で生きていくためには残念ながら必要不可欠な要素なのでお含みいただきたい。

又、この造船業界は3年周期で好不況が繰り返されています。なぜならアジアの後進国が安値で受注し、造りすぎるからです。

反面、唯一利益が安定しているのは当社の船舶事業部で扱う外国船籍の船の部品供給です。以上です」と締めくくった。

長谷川は難しそうな顔をして、

「マリンの仕事は奥が深く素人が簡単に入っていけるような領域ではなさそうですね。時間をかけて勉強します」と言ってテーブルの右手方向に目を移した。

前澤は気になって塚口の顔を見た。塚口の表情は長谷川が〝マリンの業界の奥深さ〞に気づいたことに〝してやったり〞と言ったように口を真一文字にして首を下に振った。

前澤にしても、陸上の仕事である食品機器、産業機器、産業資材はマリン業界と少し異質な業界であることは認識していたが、今日、長谷川部長が感じとった印象は外部からの人にもそのように映っているのだと改めて認識した。