理由が小さい。
ペンが見つからない。靴下が片方ない。ネットが遅い。
以前なら流していたことに、引っかかる。
「それも薬」
母が言う。
「万能説明ですね」
「だいたい当たる」
感情に名前がつくと、少し距離ができる。
“自分が短気”ではなく、“薬の影響で短気モード”だと考える。
これはかなり役に立った。
睡眠は相変わらず浅い。
夢が多い。しかも妙に具体的だ。
検査結果の紙が空白だった夢。
病院の廊下が迷路になる夢。
減塩ラーメン専門店を開く夢。
最後のは悪くなかった。
外来で相談した。
「眠りが浅いです」
「想定内です」
「またその言葉」
「対策はあります」
軽い睡眠導入剤が追加された。
「依存しません?」
「量と期間守れば大丈夫」
医療はだいたい“使い方次第”だ。
体の見た目も変わってきた。
顔は丸いまま、腹も少し出た。
「これは水ですか脂肪ですか?」
「両方です」
主治医は正直だった。
「戻ります?」
「調整すれば」
希望は残っている言い方だった。
希望があれば後は自分次第。
私は散歩を日課にした。
毎日20分。タイマーをかける。
早歩きすぎないようにするのが難しい。調子がいいと上げたくなる。
だが抑える。長期戦は、物足りない強度が正解だ。
ある日、事件が起きた。
ラーメンの匂いに遭遇した。
駅前、強烈。
記憶を直接殴ってくるタイプの香りだ。
私は立ち止まった。
真剣に5秒悩んだ。
人生の分岐点みたいに悩んだ。
そして、出汁専門店に入った。
減塩うどん。
「勝ったのか負けたのか」
よく分からないが、ルールは守った。
自分の欲に負けない厳しい長期戦は長すぎる。
闘病ログは続いている。
【体重 −1.2】
【血圧 安定】
【むくみ 軽減】
【気分 波あり】
波あり、を許可した。