調布駅南口のロータリーで降車した時、トランクの荷物はすべてお渡ししたはずだ。でもあの時、確認が不足していたのかもしれない。運賃を頂いた後、トランクにあった荷物はすべてお渡ししたはずだ。もし、足りていないのなら、お客様側が催促するはずだ。でも、お二人は何も言わずに駅前広場を進んでいった。

……室内ミラー越しの二人に変わったところはなかった。目鼻立ちの整った顔立ちの奥様は、ドライバーの翔太にも話を向けてくれ、気遣いのある方だった。

─ご夫婦は中御門さんといって、牡鹿半島の町で生まれ育ち、四十年ほど前に八王子市に移ったらしい。最近、七十過ぎの旦那さんに認知の症状が現れて、奥様一人での介護は難しいとのことで、高齢者ホームに入居していたのだが、旦那様が実家に帰りたい思いが強く、奥様は仕方なく帰ることになったと言っていた。

一か月ほど前に入居してからというもの、旦那様は思うように生活ができないことに苛立っていたようで、ことあるごとに不満を口にしていたそうだ。

毎日、何度も繰り返していた。

「俺は何でもできる。こんな所にいたくない」

「早く家に帰ろう。やらねばならないことが沢山ある」

「どうしても帰りたい」

同じ調子で、真顔でこのセリフを繰り返す。

その度に、奥様は優しく返していた。二人では生活ができないこと、介護士さんにお願いしなければならないことが沢山あることを説明したのだが……。

試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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