チワワのガッキー君は真剣な表情だ。
「ちょっと待ってくれ。俺には何の関係もない! 誰かが忘れていった気味の悪い木箱を俺が保管する義務はない」
翔太は声を荒げた。
「そもそも木箱にどんな力があるのだろうか? 人類の未来すら変えてしまうほどの力だと手紙にあった」
柴犬のグッキー君は首を傾けた。
居間の真ん中に置かれた不思議な包みに、二匹と一人の視線が集まった。
「今、分かっていることは、この木箱には底がないこと。周辺を一気に冷やす冷却装置みたいなもの。この二点だ」
不吉な箱を見ながら落ち着かない気分の翔太が言い切った。
「底のない木箱なんておかしいよ。僕が内視鏡になって調査してみようか」静物変身が得意なグッキー君は恐る恐る提案した。
「いや、今はやめておこう。木箱にどんな力が備わっているのかはっきりしない段階で軽はずみな行動をして、もし、グッキーに何かあったら大変だ」そう言って翔太はグッキー君の背中をそっと撫でた。
頷いたグッキー君は、床に置かれた風呂敷包みの周りをのそのそと歩いている。クンクンと鼻を持ち上げて話し出した。
「この風呂敷は木箱の持つエネルギーを包み込んでいる。木箱からは微かな息遣いが聞こえている」
ゴクリと翔太の喉が鳴った。
「不気味な木箱だ。誰が俺のタクシーに忘れたのか」
今日、乗車したお客さんの顔を一人ひとり翔太は思い浮かべた。心当たりがあるのは最後に乗車した老夫婦だ。多摩川沿いにある高齢者ホームから送迎依頼があり、お迎えに行った。
トランクを開き、翔太はすべての荷物を入れた。