「なに言ってるのよ、去年は私がお弁当作ってきてあげたでしょ」

「そうそう、シノちゃんも優しいね。忘れてないわよ」

「この真桑瓜(まくわうり)はお弁当のあとでみんなでたべましょう」

「まあ素敵! ヤッチンて優しいわ。本当に、大好きよ」

「結局みんな優しいでしょ」

「そうそう」

お昼の後に一休みしているとシノちゃんが、

「合唱部のつぎの演奏会は市内の文化祭と学校の創立記念日ね」

と話題を出した。ヤッチンは、

「創立記念日は縮小で、曲目は去年の半分ですって」

「また戦争のせい。それじゃ文化祭を頑張らないといけないわね」

「今年こそ活水(かっすい)女学校に勝ちたいものね」

「そうそう」

朋もみんなと一緒に頑張りたいと思った。夏の日差しが暑かった。

夏休み中、まったく異例のことに校長の交代があった。今までの校長は県北部の中学校長に転出になったのだが、この校長は実務は教頭に任せきりで、ハンコを押すことと、対外的な会議に出席することと、朝礼で訓示をすることしかしない人だった。彼がなぜ転出したのか、その理由は誰も知らなかった。

新しい寺尾(てらお)校長は、県の学務課長を長年つとめ、県下の学校の戦時体制をほとんど一人で作り上げた人だった。次の内務部長と目されていたが、若い人に席をゆずりたいと希望して県女の校長になったという話だった。そんな大物が一県立女学校の校長に天下ったほうが不思議だったから、生徒も職員も少なからず緊張した。