【前回の記事を読む】福岡の父の実家への帰省は、夏休みの恒例行事…のはずだった。だが戦時下の食糧事情で、親子3人で押しかけることは…
一年生
水着に着替えて、沖合の飛び込み櫓(やぐら)の立てられた艀(はしけ)までみんなで泳いだ。ヤッチンたちは本科の一年からプールの授業があったから泳ぎは得意だ。殊にミサちゃんはみごとなクロールで、あっというまに艀まで泳ぎ着いてしまった。朋がゆっくりと平泳ぎで泳いでくるのをみんなは艀のうえで応援してくれた。
さんざん泳ぎ回ったあとで、砂浜に寝そべりながらミサちゃんが呟いた。
「この青い空と海の先で戦争が行われているなんて信じられないね」
シズちゃんも、しみじみとした声で、
「本当ね、今もどこかで戦闘が行われているのかなぁ。ガダルカナルから転進した兵隊さんはどこで闘っているんだろう。チエちゃんのお兄さんはどこにいるの?」
「分からないわ、ほとんど手紙が来ないから。でも戦闘機に乗って、どこかの空を飛んでいるんだろうな。山本元帥が機上で戦死されたけれど、お兄ちゃんは無事だといいけど……」
のどかな海水浴場に少し影がさしたところでヤッチンが、
「さあ、お昼にしようか。お腹すいちゃった」
と明るく言うと、ミサちゃんは力強く起き上がり、
「そうそう、お昼。お腹ぺこぺこよ、クロールはやっぱり疲れるわ」
各自が持ちよった弁当を分け合いながらお昼にする。普段は貧しい弁当も、今日は奮発してご馳走が詰められている。朋は久しく見なかった玉子焼きを入れてきた。
ミサちゃんは寄宿舎生活だから弁当がない。
「はい、これはミサちゃんの分」
シズちゃんが余分に作ってきた弁当をミサちゃんに差し出した。
「わぁ、ありがとう。シズちゃん優しいね。ほんと、優しいのはシズちゃんだけだよ」