自分のデスクのパソコンで次の会議の資料を作成していた。時計はもう午前10時を回っていた。11時までに資料を作らないと、社長が出かけた後では段取りがまた半日遅くなって悪循環に陥ってしまう。
悠真はあせりながらキーボードをたたき続けた。1m78cmの長身でやせ型、縁なしメガネをかけ一見インテリ外見の顔立ち。
しかし似合わない七三の髪型の残念なイメージの26歳の青年。それが2039年現在の青山悠真である。
悠真は『タカラギ・プロ』の社員として4年目を迎えていた。そこは新橋駅から徒歩15分ほどの貸ビルに拠点を構えた所属タレント8人の小さな芸能プロダクションだった。
悠真は朝から晩までテレビ局や広告代理店、レコード会社を駆け回っていた。社員6人、アルバイトや派遣社員を含めても9人の状況だから複数の仕事を独りで受け持っていた。
ただ、彼の本来の仕事は新人の発掘をするスカウトマンである。
悠真は専属タレントの売り込みをする傍ら、原宿や渋谷に出向いて新人発掘に汗を流した。今日もめぼしい少女に声をかけようとしたが、変質者を見るような目で睨んだ後、無言でそそくさと行ってしまった。ただ、輝いて見えた少女のほとんどが近づくに従って期待が失望に変わり、声をかけるまで至らないのがほとんどだった。
ほんとに自分の探している少女はこの東京にいるのだろうか? そんな疑問を持ちながら、ふとあることを思い出して、歩道橋に上って通りを眺めた。
昔、写真週刊誌のカメラマンが可愛い子を写真に収めたくてこの歩道橋から下を見下ろした時、100m先にスポットライトが当たっているような美少女が立っていた。そのただならぬオーラと眼力に釘づけになったと語っていた。
本物はどんなに遠くからでも見つけることができるはずだという逸話だ。しかし悠真の目の前にはまだその本物は現れることはなかった。
3時間が過ぎて、街頭の明かりが点り始めたのでここが潮時だとコインパーキングに急いだ。もうため息の出る毎日が続いていた。