貴女の物語 その続き
世の中でスターになれる確率ってどのくらいあるのだろうか。
どんなに素質に恵まれていても、たどり着けなかった人が何人もいる。数少ないチャンスを見逃さず、自分を磨き続け、常に挑戦する心で運命を切り開くことができた人間だけがスターの称号を手にする。
ただし幸運の女神を味方につけていなければ、そこにはまだ乗り越えられない高い壁が存在する。もし努力だけで上手く越えられたとしても、運がなければ長くは続けられない。トップを走り続けること、それが本物のスターとしての品格というものである。
その昔、一時代を築き上げた星山美鈴は間違いなくその数少ないスターの一人であろう。
しかし彼女の場合、衝撃的ともいえる最期に至るまで、とんでもない波乱万丈の人生を送っており、今やそれは伝説と化している。それがどんなものだったのか、普通の人生しか経験していない悠真にはわかるはずがなかった。
そのはずだった……。
悠真はそこでひとりの少女と出会った。それは偶然だったのか必然だったのか、あまりに奇妙な関わり合いを経て、彼は彼女とともに夢を追いかけることになった。
確かに彼女にはスターの素質があった。しかしそれ以上に彼女は信じ難い秘密を胸の内に隠し持っていた。もしかしたら、それは「十億人に一人の逸材」でも説明のつかない秘密なのかもしれない。
「青山さん、今日円華ちゃんどこへ行ってるか知ってますか?」
事務アルバイトの室井紗理奈が悠真のデスクまでやって来てつぶやいた。それは質問というよりは呆れ返っているような言動だった。
ただ円華は昨日までの収録が終わり、今日は久しぶりのオフである。円華のプライベートに対して、干渉しないことを最初から決めていた悠真にとってそれは余計な情報だった。
「さあ、聞いてないけど」悠真はそっけなく答えた。
すると紗理奈は得意気に仕入れてきた情報を悠真に披露した。「円華ちゃんったら天宮司美緒のライブに行ってるそうですよ。しかもファンクラブ限定ですって。自分もアイドルだって自覚ないんですかね?」
円華が美緒に憧れを持っていたのはデビュー前から知っていたが、アイドルとして忙しくなってからでは久しぶりに聞く名前だった。
方向性の違うスターに好意を持つのは悪いことではないが、影響を受けるとなると手放しで喜べるものでもない。しかも全国ツアーならともかくFCライブとなると少し世間体的にも問題があるような気がした。しかしふと、そんな些細なことを心配している自分に気づいて可笑しくなった。
「オフなんだから仕事に支障がなければ彼女の好きにすればいいさ。詮索好きは若い子に嫌われるぞ」
悠真は円華の真意を確かめたい欲求を抑えながら、興味本位の紗理奈に釘を刺した。紗理奈は優等生返答の悠真に不満気な顔をしながら給湯室の方に姿を消した。