【前回の記事を読む】「ラーメン1杯で終了ですね」退院の兆しが見えたのに…IgA腎症の塩分制限がキツ過ぎる件について
第六部:退院という名のチュートリアル終了
運動制限の話も出た。
「激しい運動は禁止」
「どこからが激しいですか?」
「息が上がるレベル」
「人生けっこう息上がりますけど?」
「それは大丈夫です」
線引きが難しい。
「散歩は推奨」
「犬いないです」
「自分を散歩させてください」
新しい表現だった。
シャワー許可も出た。これが地味に嬉しい。
点滴なしで浴びるシャワーは、文明の勝利だと思う。
湯気の中で、自分の体を見た。確かに丸い。
「月面着陸成功」
ひとりで言って、少し笑った。
病室に戻ると、スーツ入院の彼が言った。
「先に出るんですか?」
「たぶん」
「いいなあ」
「外、仕事地獄ですよ」
「でも選べる地獄です」
名言だった。
「ここは強制イベントですもんね」
「スキップ不可」
ゲーム理論で会話する患者たちだった。
午後、村長と長めに話した。
「退院したら何する?」
「減塩修行」
「最初は全部失敗する」
「予言やめてください」
「でも続く」
「なぜ分かるんですか?」
「全員そうだから」
データが強い。
「怖いです」
私は正直に言った。
「外で悪化したらと思うと」
「する時はする」
「慰めになってないです」
「でもな、早く気づける」
「どうやって?」
「自分の体を毎日見るから」
入院で得た最大のスキルは、たぶんそれだ。
体調の違和感に気づく感度。
夕方、退院日が正式に決まった。
3日後、カウントダウンが始まった。
嬉しいはずなのに、少し落ち着かない。
修学旅行の最終日みたいだった。
その夜、小さな事件が起きた。新しい患者が入ってきた。
高校生くらい。顔が青い。
「腎臓ですか?」
私は聞いた。
「はい」
「ここ、わりと優しい村です」
「村なんですか?」
「むくみ村」
彼は少しだけ笑った。それで十分だった。
夜中、眠れなくて廊下を少し歩いた。