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刑事部屋の廊下側に置かれた打ち合わせテーブルで空閑と沢渡が捜査の会議をしていると、その脇でサツ回りの若い記者が足を止めた。

「沢渡さん、ゲイ専門ラブホ『XOX』の事件の担当って聞いたんですけど?」

「まあ、担当は担当だ。まだ発表していることの他には、何もないよ」

沢渡は機先を制し、警戒線を張った。

その記者は、向かいに座る空閑を見ると

「W新聞の記者・神木(かみき)凱亜(がいあ)です」

と言って名刺を出し空閑に渡した。

「いつも沢渡さんにはお世話になっています」

長髪の頭をチョコンと垂れた。

空閑は黙って名刺を受け取るとテーブルに置き、ケータイの液晶を再度覗き込んだ。

「お前ね、いつもお世話になんかしてねー、気安く言うな!」

沢渡はすかさず乱暴な口調で神木に文句を言った。

「ちょっと、口が滑りました。こちらの刑事さんは本庁の刑事さん?」

「本庁捜査一課の空閑さんだよ、しっかり挨拶しとけよ」

「もう済ませました」とさらっと言い、沢渡に向き直り、目を合わせてきた。

「なんだよ! だから、何もないって言っただろう」

「聞きましたよ!」

神木は嬉しそうに沢渡の顔に言った。

「何を?」沢渡の目が吊り上がった。

「いえ、自販機のところで缶コーヒーを飲んでいたら、聞こえちゃったんです」

「ええー? 何を聞いたんだよ」

沢渡が睨み据えた。

「死体のアヌスに黒薔薇の花が挿してあるとかなんとか」

神木は、一段と声を潜めると

「警察発表には、たしかそのようなことはなかったですよね」

と沢渡に確認した。

「お前ね、それは……。聞かなかったことにしておけ! わかったか?」

「なんか、今日、沢渡さん、気が立っています?」

二人の会話を聞いていた空閑が徐に立ち上がった。

神木記者の細い肩に手を置き、顔を近づけ、耳元で囁くように言った。

「神木君、だったっけ? 聞こえちゃったらしょうがねえが、それは現在捜査本部内での検討事項で、犯人しか知り得ない重大事項扱いだ。したがって、記事にするのは、捜査がある程度進むまで待ってくれ」

空閑は言い終えると、肩に置いた掌で、ポンポンと肩を叩いた。その顔には一切の表情がない。

神木は、コックンと小さく頷いた。

「よかった。納得してくれたか」

沢渡が口角を緩めた。

「でもたしか、黒薔薇はこの世に存在しないと、何かで読んだ記憶があるんですが……」

 

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