【前回記事を読む】ラブホテルで発見された異様な遺体…バスタブで男性が臀部を突き出すように突っ伏していて、肛門に黒薔薇が深々と刺し込まれていた
零章 第一の殺人
◇2◇
「被害者は相手に手を引っ張られているように見えるが?」
「そうですね。動画を見る限り、被害者はデイパックを背中にフードの人物に手を引かれる感じです」
「被害者が手に持っている細長い袋は、何だ?」
「その紙袋は、押収されていません」
「ということは、フードの人物が持ち去った?」
「ですね。残っていれば、被害者の指紋が出たかもしれません」
「犯人は用心深いな……。ホテルには徒歩か?」
「ホテルに駐車場はありませんので、徒歩かタクシーですね。場所的に二丁目あたりで飲んでいたように考えられますが。私見ですが……」
「二丁目あたりで飲んでホテルまで歩いてきた……。被疑者は、用心深いからタクシーは拾わないな。歩いて最寄りの地下鉄駅に行き地下鉄に乗ったか」
「するとホテルから最寄りの駅までにある防犯カメラに映し出されているかもしれません。五十嵐管理官に応援班を回してもらいましょう」
「そうだな」
空閑は缶コーヒーを手に写真を見ながら短く相槌を打った。
「で、死体のアヌスに薔薇の花が挿してあるというのは、どう思う?」
空閑は死体の状況写真を見ながら、顔を沢渡に向けた。
「犯人のメッセージ。ですか? アナスに刺したのは、死人に花を手向けたとか? それとも薔薇に何かの意味があるのでしょうか? まさかただの愉快犯……」
沢渡の声が尻すぼみになった。
「薔薇に意味……か。思い当たるのは薔薇の花言葉くらいだが」
空閑はさじを投げた言葉になった。
「しかも、その薔薇は黒薔薇ですよ。不吉な予感がしますね」
「ちょっと調べてくれ」
沢渡は、スマートフォンを取り出し検索サイトにアクセスすると、素早く『黒薔薇の花言葉』と入力した。
「花言葉は『恨み』『憎しみ』『あなたは「あくまで」私のもの』と、書かれています。どう見ても嫉妬による痴情のもつれ的な組み合わせですね」
「だな」
「ちょっと待ってください」
沢渡はスマートフォンを見ながら
「薔薇の本数にもいろいろな意味があるそうです。1本なら『あなたしかいない』 3本なら『愛しています』4本は『死ぬまで気持ちは変わりません』100本なら『100%の愛』となっています」
「そんなに細かく分かれているのか。1本だと『あなたしかいない』……。まあ、どちらもその意味は近いな」
空閑は言葉を切ると目を閉じ眉間を静かに摩った。
「何か? 思い当たることがありますか?」
沢渡が静かに問うた。
「いや……死体のアヌスに黒薔薇を挿して、意味がないなんてことはないよなと思って」
空閑は潜めた声で言うと虚空を見つめ、手にした缶コーヒーを徐(おもむろ)に口に運んだ。