《同・庭》

茣蓙(ござ)を敷いた上で、脇差を手にして、着物の前を開けて腹をさする安兵衛。

なかなか腹に刀を刺せない。

安兵衛「(呟く))武士として立派にやらねば……フウ~」

「待て!」の声。

大杉が庭に入ってくる。

大杉「早まるな! 安兵衛」

 

大杉、安兵衛の手から、脇差を取り上げる。

大杉「こんなこともあろうかと……来てよかった。……幸い攘夷派に襲われた青柳も一命は取り留めた」

下を向いていた安兵衛が顔を上げる。

大杉「お前を所払いとする」

安兵衛「え?」

訳がわからず、怪訝な顔の安兵衛。

大杉「それに、お前には使命がある」

安兵衛「(さらに怪訝顔で)は?」

大杉「お多恵様の捜索だ」

安兵衛「は?」

大杉「殿はご正室との間にお子がなく、お秀の方との間に、お子が、つまり妾腹だが秀太郎様がおったが……」

安兵衛「……」

大杉「先だってお亡くなりになったのじゃ」

安兵衛「……(考えながら聴いている)」

大杉「そこで、お多恵様じゃ。お多恵様のことは

安兵衛、知っておるか?」

安兵衛「いえ……?」

大杉「お多恵様は、奥女中として勤めていたが、殿のお手付きとなった。しかし、お秀様と折り合いが悪くてな。五年前にお城をお出になり、その後、この古河を出奔したが」

安兵衛「……」

大杉「ある奥女中の話だと、懐妊されていたとのこと。殿もお多恵様を憎からず思っていたが、何せ、お秀の方様がきついお方じゃったからのう」

大杉、安兵衛の顔を見て何度か頷く。

安兵衛、つられて頷く。

大杉「それで……」

安兵衛「それで?」

大杉「おまえに行方を捜してほしいのじゃ」

安兵衛「? 家中の方がお捜しになれば」

大杉「勿論、内々やってはおるが、町うちのことは苦手じゃて。それに、幕府には内緒じゃて町奉行に頼むわけにもいかずな。おまえは町方の者に好かれおるし、町飛脚になって江戸の町を飛び回れるじゃろう」

安兵衛「どうして江戸だと」

大杉「姿を隠すには江戸じゃろうと思うがの」

庭には、桃の花が芽を吹いている。

《江戸城外観》

T「半年後」

《江戸・番屋の前~通り(日替わり)》

蝉の声が聞こえる。朝顔が鉢の中で可憐な

姿を見せている。

安兵衛、番屋の役人と話している。

役人「下総(しもうさ)出身の娘かい。知らねえなあ」

安兵衛「そうですかい。もし、何かわかりましたら、前にもお願いしましたように長の字長屋のあっしのところにご連絡を、へい」

と、謝礼用の手拭いを渡す。

走り出す、安兵衛。汗をふきふき見上げると、青空の中に浮かぶ大杉の顔。

その時、バーンとぶつけられ、転がる安兵衛。

男の声「危ねえじゃねえか。この唐変木!」

安兵衛が顔を上げる、飛脚の次郎吉(30)がにやにや笑って立っている。

安兵衛「何だ、次郎吉か」

次郎吉「何だはねえだろうよ、安兵衛。今度の仲間会は走るんだろ?」

安兵衛「まだ用があるんだ」

と、立ち上がる。

 

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