パリの古い通り

バスティーユ広場に面しているカフェFは気に入っていてよく利用する。キッシュロレーヌ、フライドポテト、田舎風サラダとなんでもおいしい。

サービスをするムッシューたちも皆感じが良くてお茶目である。地元の人が多く利用しているみたいで店先でキスの挨拶をしている姿をよく見る。

店の中もテラス席もかなり広い。それでもいつも混んでいる。席に座ってしまえば急かされることなくゆっくりと過ごせる。値もそう高くはない。店のムッシューとのやり取りも楽しめる。

その日もカフェFでゆっくり過ごしてから周辺探索を始めた。今日はバスティーユ周辺の古い通りが目的である。パリにはところどころびっくりするような古い通りがある。行き止まりのことも多く、崩れそうなアパートなどの1階がギャラリーになっていたり工房だったりする。

住民らしき人とたまにすれ違うが、観光客らしい人の姿はほとんどない。その古い路地は裏側で、たとえば花屋なら店は他の通りに面していて裏口がその古い通り側なんてこともある。バスティーユ周辺には職人の通りとか家具商の通りとかでそういう行き止まり的な小道がいくつかある。

今日はそのうちのひとつで映画『猫が行方不明』が撮影されたという通りを探す。パリの下町の話という感じのその映画は古い通りで主人公と近所のおばあさんたちがいなくなった猫を探して活躍する。

この周辺はよく来るのだが、その通りは知らない。バスティーユ広場に面してボージュ広場と反対側の方角である。地図を片手に歩き出す。パリは通り名が建物の角に書いてあるので分かりやすい。それでも小さな通りなどは見落とすこともあるので人にも尋ねる。

ここに入っていいのかしらと思うような細い道を抜けるとその通りはあった。すれ違う人も怪訝な様子だが「ボンジュール」と声をかけると途端ににこっと笑って「ボンジュール」。

映画で見たとおりの下町風で、きれいとは言えない通りだが雰囲気がある。そう長くはない通りでしかも行き止まりである。用のない人は歩いていないのかもしれない。

すれ違った何人かは芸術家風でおばあさんには会わなかった。モンパルナスにも同じような通りがあるのを思い出しながら来た道を戻る。そこでまるで映画に出てきたようなおばあさんがパンを抱えてくるのに出会う。

「こんにちは、そのパンはどこで買ったのですか? おいしそうですね」

「この通りを出て右へ曲がればすぐよ。ここのはどれもおいしいのよ」答えながら、どこから来たの? そう日本人なの。と興味ありげにお喋りを始める。そうそう、この雰囲気はまさにあの映画の世界かもと妙に納得したのである。

 

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