早坂は言い終わると腰を下ろした。

一同は「とんでもない事実を聞かされた」と呆然としていた。興奮は収束すると一つの感慨となり、独り言となってあらわれた。主に中学生がこう言った。

「そこまで考えてるとは……早坂さんはすごい」
「あの人は目先だけでなく、未来を考えている」
「ああいう人がリーダーになればいいのに」

彼らは尊敬の眼差しで早坂の顔を追った。早坂はそれに気付かぬ態で、元に座っていたところに戻った。

泉も早坂の意見を手放しに感嘆し、絶望しもした。だが、それよりも、場の変化が気になった。

林の隣に立つ早坂。
林の醸したムードを一変させた早坂。
頭のいい早坂。
弁の立つ早坂。
中学生たちの視線を独占する早坂――。

(彼は何かに気付いている)

泉の脳裏に暗澹たる空想が逆巻いたが、頭を振って思念を払いのけた。顔を上げると、林が立ち上がり、こんなことを言っていた。

「早坂君の言う通りだね。塀は、外から我々を守ると同時に、外の世界を我々から守る塀だね」

林は苦しげな笑みを浮かべていた。

泉は人に聞かれぬよう、小さくため息した。