Chapter4 探検隊
塀作りの土木工事がはじまって一か月が経った。タイムスリップを受け入れてからの時の流れは早かった。日を追うごとに日の出が遅くなり、朝夕涼しくなってくる。塀は冬までに完成させなくてはならない。その思いが、若者たちをますます急かした。
工事は計画通りに進んだ。岩崎と沼田の異なる大学コンビの知恵のコラボレーションは見事なものだった。
岩崎は設計だけでなく現場の監督も務めた。五メートルの塀を作るために、キャンプ場の周辺に一メートルの穴を等間隔に掘り、六メートルの木杭を立ててゆく。立てた木杭に横木を渡し、トウモロコシの皮と稲藁で綯なった縄で固く結ぶ。縦横の枠木ができると、その隙間を柴で埋めてゆく。高所の作業は足場を組み、テント用のロープを命綱に使う。これらは全て岩崎のアイデアである。
沼田は岩崎の計画をサポートしつつ、要所要所に知恵を凝らした。たとえば、以前イノシシが入り込んできた藪のところは、塀を特に厚くした。六メートルの木杭は山から伐り出すが、手近なところから伐り集めるのではなく、密集して生えているところから間引いて伐らせる。山を裸にしてしまうと崖崩れの恐れがある。こんな感じで沼田はいろいろと気を配った。
メンバーは男女を問わず、自分のできる仕事に自分から積極的に取り組んでいった。日常業務は、塀作り・食事作り・畑作――この三つが大部分を占めた。ほとんどが力仕事で、わずかひと月でみな素晴らしくたくましくなった。サバイバル生活が若い身体を鍛え上げ、粗食で脂肪が減り、筋骨隆々となった。
体力に自信の無かった女子でも、今では自分の身体の二倍くらいの量の藁束を軽々と担ぐことができた。男子は自分の腕くらいの太さの木枝なら簡単にへし折れたし、全身の筋肉がバランスよく鍛え上げられて、木登りが上手になった。男女とも互いに「マッチョになったね」と認め合うほどである。
なかでも話題となったのは、全員から「小太り」の印象を持たれていた沼田稔の腹筋が割れてきたことである。
「縄文時代に来て良かったね、人間グーグル先生!」
中学生女子はからかったつもりで言ったのだが、沼田自身はまんざらでもない様子だった。