記憶の海がすぐそこにせまっていた
風の中で砂になりながら
かつての眼差しはいまも風化せずに
まだヌメヌメと動き続けていて
砕かれた沖合に浮かぶ夜と
朝もやに溶ける光、古びた情景を貫く太陽の軌道が見える
漆黒の海底に音もなく着地する
記憶の地層の油に帰り私を忘れる
〈・・・―――・・・〉
(そう言って彼女は三短点、三長点、三短点、とテーブルを指先で弾きモールス信号を送る素振りをする)
そんな夢だった、それしか覚えていない
ほんの微かな光と言霊だけが宙に漂い
瞼を開くつかの間に言いかけて消滅した声
それにまた新たな熱が、一瞬で一生を走り抜ける高温の火の穂が僕に突き刺されば
きっと応答は待てない〟
「ワッツ? ディジュセイ、アユOK?」
リッキーが怪訝そうに眉をひそめ、彼女の肩に優しく腕をまわす。
「ディスイズポエム、オライ? 詩よ。わかる?」
天井のシーリングファンがカタカタと音を鳴らしてまわり誰かがつけたライターの火に同調して羽根の影がゆっくりと明滅する。
「昔臨海学校で書かされたの、まだ広島にいた十代の頃にね、クラスのみんなにませてるとかひどくバカにされて、恥ずかしくて教室の壁から剥ぎ取って持ち帰ったわ、そしたら、市議の仕事が忙しくてろくに会話も交わさなかったパパが初めて私を褒めてくれたの、原爆だねってわかってくれてとても嬉しかったから、覚えちゃった。
恋愛を知ったのはそれからずっと後の話よ、だから早くキスして」