分子標的薬の幕開け
近年の分子生物学(註2)の進歩によって、がん細胞に見られる遺伝子やタンパクの変化が明らかにされ、それを標的とした薬(分子標的薬)の開発が進められた。
最もよく知られているのは、HER2というタンパクを標的とした薬のトラスツズマブ(商品名ハーセプチン)である。
HER2タンパクは正常細胞において細胞の増殖・分化などの調節に関与しているが、何らかの理由でHER2遺伝子に異常が起こると、細胞の増殖や分化を制御できなくなり細胞は悪性化する。
HER2遺伝子変異やHER2タンパクの過剰発現は多くの種類のがんで認められる。最初に標的薬として認められたのが、HER2タンパクが過剰に発現している乳がんで、1998年に米国、2001年にわが国でハーセプチンが承認され、乳がん治療に大きな成果をもたらした。
註1:トポイソメラーゼ阻害剤について。細胞の増殖にはDNAの複製が必要となり、複製にはDNAのらせん構造のねじれを一度切断する必要がある。このらせん構造の切断に必要な酵素がトポイソメラーゼであり、Ⅰ型とⅡ型のタイプが存在する。それら酵素の阻害剤がDNA複製を阻害し、細胞分裂を抑制して抗がん薬として効果を発揮する。
註2:分子生物学は、遺伝子をはじめとする分子の生体内での働きを解明しようとする学問で、生命科学が飛躍的に進歩している現在、その中核の位置を占めている。ヒトゲノム解析が進められ、病気の原因などの探求に分子生物学的研究は極めて重要である。
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。