聖ローザは13世紀の人である。神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世と教皇インノケンティウス4世が争う激動の時代において、宗教心篤く貧しい人々を心にかけ、平和のために力を尽くしたが、僅か18歳で早逝した。
その後、1258年のある日、当時ヴィテルボに滞在していた教皇アレクサンデル4世は、聖ローザの夢を見た。この中で聖ローザは、生前入信を希望していた修道院に遺体を移してほしいと頼んだという。
そこで教皇が聖ローザの墓を掘り起こさせたところ、死後数年経過していたにもかかわらず、遺体は全く腐敗しておらず、同年9月4日、遺体は丁寧に天蓋に乗せられ、故人の希望通り修道院に運ばれた。聖ローザの祭りは、この遺体を運んだ故事に因んだ祭りである。
山車は年を追うごとに大きく華やかなものに作り変えられてきた。実際に目にしてみると、その巨大さに驚く。これを倒さず運ぶためには、熟練した技が必要だ。
担ぎ手はファッキーノと呼ばれる18歳以上35歳以下の若者で、150kmの箱を約90m運ぶというテストに合格した者から選ばれる。山車を担ぐのは命がけなので、それだけ選考基準も厳しいのだろう。聖ローザへの信心と責任感がなければ到底成し遂げられない役目であり、ファッキーノ達は、昔からヴィテルボ市民から尊敬を集めている。
9月3日午後9時。「聖ローザ万歳!」(Evviva Santa Rosa!)と市民が連呼する中、ファッキーノ達が1列ずつ所定の位置につく。
やがてチーフポーターの指示で山車がふっと持ち上がり、おもむろに動き出すと、それまで盛り上がっていた観客や報道陣は一斉に無言となり、手に汗を握って食い入るように山車を見つめる。塔のように巨大な山車を人の力だけで運ぶのである。祭りの成功とファッキーノ達の無事を祈り、ヴィテルボ市民が心を1つにする瞬間である。
祭りのクライマックスは、山車が最後に聖ローザの遺体が奉られている聖ローザ教会前の坂を上る瞬間である。滑らないようにと砂がまかれている坂を、ファッキーノ達がロープで前から山車を引っ張り、別のファッキーノ達が後ろから差し込まれた棒で押し上げて、高い山車のバランスを保つ。最大の難所であり、ファッキーノ達の腕の見せどころだ。
誰もがハラハラする気持ちで見つめていると、山車が無事に到着した。教会前では今か今かと待ち構えていた市長以下関係者やファッキーノ達の家族が出迎え、歓喜と祝福で街中が大騒ぎとなった。