恵美ちゃんは用意しておいた図書券の包みを差し出した。

「いえいえ、当たり前のことをしただけですから、お礼なんてけっこうですよ」

想定されたことだが、いくら落とし物を拾った立場だからといって、年下と考えられる女子の、しかも高校生からお礼をもらうわけにはいかない。

「いえ、もう用意しちゃったんで……。なくしたことを考えるとぜんぜん安いので気にしないでください」

と、彼女は半ば強引に手渡し、そして、すかさず尋ねた。

「大学生ですか、それともこのあたりにお勤めですか?」

練りに練った予定どおりの質問を、恵美ちゃんはまずした。

「えっ、あっ、はい、大学生です」

吉田さんにとっては会話が続くとは思ってなかったらしい。それはそうだ。

落とし物を返すだけだし、お礼をもらえるなんてことも想像していなかったはずだ。突然の質問にちょっと戸惑っている様子はあったけれど、彼は素直に答えてくれた。やはり、大学生だった。

「どんな大学ですか?」

ここで私が、おもむろに口を開いた。余計な問いかけだし、初対面のくせにいきなりそんなことを聞くのも失礼だと思ったけれど、話を続けるには、この流れのままの質問を重ねるしかない。無邪気な高校生の疑問と思ってもらえればそれでいい。

「この路線の終着駅近くにある栃木医科大学の二年ですね。電車で通っています」

ちょっとびっくりした。

「えっ、医学部なんですか?」

いやもちろん、そんなに驚くことではないのだろうけれど、でもやっぱり医学部ってすごくない? 私と恵美ちゃんは顔を見合わせた。