その日の夕方、英介は今後の瞳とのことを一人でゆっくり考えたいと思い、いつも降りる駅とは違い一つ手前の駅で降りて居酒屋がある通りをぶらぶらしていた。
「風間さんじゃないですか」
遠く前の方から男が小走りで寄ってきた。男も仕事帰りでネクタイを解いていた。シャツは営業外回りを沢山してきた後なのかヨレヨレの状態であった。英介としては一人でこれからゆっくり一杯でもしてじっくり今後のことを考えようと思っていただけに少し迷惑であった。
とりあえず挨拶だけして早めに済ませようと笑顔で男を迎えた。
その男は老舗メーカーTAKABUNEで営業係長をしているであった。
TAKABUNEは明治中期から海外の食品や雑貨を輸入販売している会社であった。
「先日は打ち合わせに出席できなくてすみませんでした。経過に関しましては赤尻から聞いております」
英介は気まずそうな感じで早川に言った。
「いえいえ日程などプロジェクトの再確認です。気になさらないでください」
早川はハンカチで顔の汗を拭きながら言った。
「今日は結構得意先を廻りました。何だか一人ゆっくりとお酒を飲みながら美味しい新鮮な魚でも食べようかなぁと思いまして、いい店があるんでここに足を運んできたんです」
早川はしみじみと言った。
「あっ実は私もなんです。良かったらそのお店に一緒に連れて行ってもらえませんか」
えっ、俺何言ってんだろうと一瞬、英介は 思ってしまった。
通りに設置してあるベンチに一人座っているトムがニヤニヤしながら二人を見ていた。
その流れで二人は早川が勧める四季の野菜と鮮魚を扱った季節料理屋へ入った。
「風間さんまずは生ビールですよね」
早川はメニューを手に取り言った。
「ここの魚はその日採れた魚を調理しているお店なので鮮度は抜群、お造りも焼き魚も煮魚も美味しいですよ」
早川は何かに解放されたように満面の笑みで英介を見た。
その時、英介はいつも見る余裕のなさそうな早川とは違い、仕事では見られない早川の一面を見られたような気がした。
「すみません早川さん、今日のことは社外内の人に変に思われても嫌なので二人だけの秘密にしてもらえますか? それと仕事の内容は一切口にせず楽しく飲みましょう」
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