そしてそのチェックボックスは増える一方である。最近はこれではACPとはとても言えないという医療関係者も増えてきているが、ずっと伊吹は違和感を持っている。
それでも伊吹は、チェックボックスに見える言葉の裏に、その人の体温があると考えてみることにしている。
だから伊吹は、コード分類という四角い器に流し込まれたチェックの体温が低くなっていないか気を遣う。紙に書いたことと、生きている心はずれるのが普通である。今の伊吹本人が、同じ立場に立たされているのではないのか?
それこそ5秒後に考えが変わるのだ。チェックボックスの体温がさめ、新たな場所へのチェックを求めている。
自分の最終診断は?
往診を終えると、伊吹は診療所に戻り、最小限の指示を残して車に乗った。午後、胸部疾患中央病院の外来へ向かう。自分のCTと病理の説明を受ける日だ。
診察室の空気は乾いていた。病理は蜂巣肺(ほうそうはい)。臨床像と合わせ、最終診断は「分類不能型間質性肺炎」。
伊吹は頷き、そして何も理解しないまま頷いている自分に気づいた。帰りの駐車場でスマホの検索欄を開く。
画面に並ぶ数字。特発性間質性肺炎の5年生存率、急性増悪、平均予後を見つめた。50%生存率が2年。がんよりも悪いかもしれないと書かれていたのが気になった。
しかし個別に予後は一定ではないとも書かれていた。それなら分類不能型は当然それよりわからない分だけマシなのかなと思って検索をかけるとこんな一文に出くわした。
分類不能型─往々にして、特発性間質性肺炎よりもっと厳しい予後と言われている。
翌日、診療所のスタッフに顔色を測られることのないように出勤した。
今年のミモザは、よく咲いた。診療所の桜はもうすぐだ。あと何度、花を見るのだろう。今年が最後かもしれない。人の命は、長さではなく、どのようにたたむかで測られる。ハンドルの向こうで、伊吹は小さく息を吐いた。
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