道の両側には朽ちかけた板と木の葉で編んだ粗末な小屋が散見されるが、その中にあって、突如場違いなレンガ造りの豪華な西洋建築が忽然(こつぜん)と姿を現す。
資産を蓄えて現役を退職した西洋人が、この辺りに別荘を建築して住んでいるらしい。
人件費と生活費の安い、温暖なこの地で、現地の若い女性を使用人に雇って、何もせずにのんびりと余生を送っている西洋人が少なくないのだと聞いた。
豪奢な西洋風別荘と、その近くの粗末な掘建て小屋が数件集まった現地の人たちの小集落とは、実に奇妙な対比を見せている。
しばらく坂を上って行くとやがて左手に大きな電波塔が見え、この電波塔を反政府ゲリラ組織の破壊から守護する兵士が詰めているという小さな小屋が現れた。
ウェンディに付いてここで道を左へ逸(そ)れると、突然目の前に広く開けた草地が出現した。
そこは一面が公園のような芝地になっていて、中央には丸太を組み合わせた東屋(あずまや)が置かれていた。
北に向かって下った斜面からは、鬱蒼(うっそう)とした森を越えて青々と広がる海が望め、更にその向こうに幾つもの島影が重なって見えた。
ウェンディが好きだというこの場所は確かに素晴らしい眺めだった。
強い陽射しを避けて彼らは東屋に腰を下ろした。
海から吹き上げる強い風が火照った肌に心地よかった。
草原はしっかり草が刈り込まれているところをみると、誰かに管理されているのだろうが、何のために誰が管理しているのだろう。
これだけの風景だ。日本ならきっと大勢の観光客が押し寄せる観光スポットになるのだろうが、ここには彼らの他に人影はなく、売店もない。
彼らは東屋の木製の長椅子に並んで腰掛け、坂の途中の小さな集落で購入してきたコーラを飲んだ。コーラは生温かかったが、汗の吹き出た身体に染み渡るようで、旨かった。
ウェンディと丘の上からジャングルのような森と陽に輝く海を見下ろしていると、つい数日前には満員電車に揺られて喧噪の日本で生活していたことが、随分遠いことのように思えてくる。
こうしていると南国の楽園に来ているようだ。吹き渡る風に身を任せたまま、いつまでもぼんやりと美しい風景を眺めていたかったが、ウェンディの帰宅時間もある。
しかし、ここまでなら彼一人でもいつでも来られるだろう。ウェンディを促し、二人は草原を後にしてハウスへ戻った。