戸井(とい)菓子屋では、さくらが大喜びをした。この『星大福』は、三月三日の『びしゃもん祭り』にあやかり、この店だけが作っているのである。大福が星の形をしているだけなのだが、さくらは手で触り、大福の感触を楽しんでいた。

三人は用を済ませた後、九つ時(正午)過ぎに、旅籠(はたご)なおふねやへ戻った。

戻るや否や、さくらが星大福をびしゃもんさんへお供えをしたいと言うので、その足で勘治と濡れ鴉の男も一緒にお堂へ向かった。

『びしゃもん祭り』の行われる毘沙門(びしゃもん)堂は、あけぼの町の裏通りにあった。脇には小川が流れており、その流れは川原へとつながっていた。

鳥居をくぐると、狛犬(こまいぬ)が左右に鎮座し、奥に古いお堂がみえた。かなり古いお堂の格子戸の隙間から、木造乾漆造(かんしつつく)りであろうか、黒々とした毘沙門天の像が安置されているのがみえた。

毘沙門天は仏教の世界において北方を守護する仏といわれている。像は身の丈六尺ほどで、左手に三尺以上もあろうかと思われる木製の長い宝剣を携えていた。

仄暗(ほのぐら)い中からこちらを見据える毘沙門天の眼(まなこ)は爛々(らんらん)として、射るような鋭い眼光を放っていた。

この毘沙門天像がいつから、なんのためにここに安置されるにいたったかは町の長老でさえも知らない。それほど古くから町の護(まも)り神として祀(まつ)られている。

賽銭箱(さいせんばこ)の脇には、お供えの品や餅、菓子などいくつか置かれていた。さくらは持ってきた星大福を手探りして、格子戸の前に置いて手を合わせた。

「びしゃもんさん、大好物の星大福ですよ。もうすぐお祭りです。今年は絶対に流れ星がみられますように、お願いします」

とても七歳の童子とは思えない口調で語りかけた。それを見て勘治は、

(目が不自由なのに流れ星をみようとしているのか……)

なかば憐れむと同時に、さくらの心持ちに感心して一緒に手を合わせた。

さくらと勘治が毘沙門天像におまいりをしている間、濡れ鴉の男は鳥居や狛犬をしげしげとみていた。白御影石(みかげいし)で出来た鳥居の柱に「尾道(おのみち)……」と彫られている。

 

 

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