鎖骨がくっきりと浮かんでいた。夜店で売っている金魚だったら、そこの窪みで飼えそうだった。
「そうね。薄い布団で充分なくらいにはね」
私は引きちぎるように視線をはずし、床に座ると布団のしわに目を落とした。
「じゃあ、僕、もう要らない?」
「え?」
ネコニャの言葉に、私は声が詰まった。
「僕、下のソファーへ、行った方がいい?」
彼は本から視線を離すことなくめくりながら無機質な声で言った。しかし伏せた横顔が、やけに弱々しく見えた。
「ネコニャがそうしたいのなら止めないけど、ネコニャがいないと、ちょっと寂しいかな」
一緒に寝はじめた頃に、彼を猫扱いすると決意した私は、率直に言った。男としてのネコニャよりも、寂しそうな独りの生き物として、彼を抱きしめていたい気持ちがあった。それを抱くことによって、私も安らぐ気がしたのだった。
「じゃあ、上条さんがいやになるまで、一緒に寝てよ」
ネコニャはにっこりと笑った。
その夜の彼は、いつもよりべったりと擦り寄っていた。私は背後から抱きしめられていたので、自分の心臓の音が背中を伝わって、彼の胸に響きそうで、びくびくしていた。抱きしめて眠るつもりが、抱きしめられてしまったので、私はうろたえていた。
外で恋の季節を迎えた猫たちが、特有の唸り声を発していた。その声に、ネコニャが一瞬身体を固くした。
「ネコニャも?」
私はこらえきれず、ついに言ってしまった。
「うん」
彼は私の耳許でささやいた。
私たちは丁寧に抱き合った。知り尽くしているサイズを、もう一度確認するように。知らなかったサイズを覚えるように。何度も何度も抱き合った。
そのネコニャが、居なくなってしまった。
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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