さてそれでは医療ではどうでしょうか。人命は地球より重いとして、1人の医療費に数億円を費やしていたら(部分最適)、国家の財政破たんは明らかです(全体最適を損なう)。しかし、自身の命や家族の命となれば何億かけても救いたいと思う心情は理解できます。
1年で数千万円もする抗癌剤が話題になりましたが、その数千万円を別の医療に使えばもっと多くの命を救える可能性はあります。しかし、自身の命となれば何億円であっても治療を受けたいという気持ちになるかもしれません。
人命を預かる臨床現場では常に目の前の部分最適を目指すことにならざるを得ませんが、社会全体としての全体最適な医療となっていない可能性を頭の片隅に置いておかねばなりません。
常にわれわれ医療者は部分最適の立場なのか全体最適の立場であるのかを意識しながら、全体最適の視点も備えた医療者であるべきです。
「木を見て森を見ず」がまさに部分最適に囚われ、全体最適を見失っていることを表現しています。経営学の視点では「木も見て、森も見る」視点が必要です。MBAの授業では戦略論やマーケティングの基礎理論を学びつつ(森を見る)、各企業のケース分析も学びます(木を見る)のでまさに「木も見て、森も見る」視点になっていると言えます。
また、最近ではミクロを見る「虫の目」、マクロを見る「鳥の目」、そしてトレンドを見る「魚の目」といった3つの目を持つ必要があるとも言われています。
トレンドを見るためには外部環境分析が重要ですが、それは戦略論のところで詳しく述べたいと思います。スポーツの世界では“オリンピックで金メダルをとること”のように目標設定が明確ですが、臨床の現場は熟しても熟しても次々に患者がやってくるため終わりがない状態になり、「虫の目」に陥ります。
しかもどんなに最善の医療を施しても人命は有限であるという矛盾を抱えていますので、やがて「鳥の目」や「魚の目」を持った時には既に何十年も遅れていた、そんな状態が日本の医療現場の実状かもしれません。
MBA取得まではとても時間もお金もないという方は、日本医療経営実践協会(http://www.jmmpa.jp/)が認定しています医療経営士(3級、2級、1級)という資格もあります。著者も3級のみ受験して合格しましたが、医療関係者ですと1~2か月も過去問を解けば合格できます。