どんなにしおらしく悔悟の言葉を口にしても、本当の本当は、判断停止して考えようとしない。自省などとは無縁の顔だ。俺にはわかっている。

四阿を飛び出て木戸に向かった。背後から男の呼び止める声が聞こえた。無視して外に出ようとしたが、木戸は施錠されていて開かない。俺は自分が今どこにいるのかを身を以て実感した。

刑務官が歩いてきて「勝手な行動は慎んでくださいよ」と拍子抜けするほど穏やかな口調で言った。近くで相対すると、眉根に数本白髪のあるのがわかった。

「帰るんだよ、ここ開けてくれよ」俺は木戸を拳固で叩いた。

「お父さんと妹さん残して、帰っちゃうの? せっかく遠くから来たんだから、もう少しお母さんと話していけばいいのに」いやに馴れ馴れしい口のきき方をする奴だ。俺が黙って突っ立っていると、男はわざとのようにゆっくりと木戸の錠を開けながら言った。

「門までは歩いてね。所内は走らないように」

木戸をくぐるとき後ろを振り返った。三人とも座ったままこっちを見ていた。

優子 ―夏―

聖がまたタオルケットを蹴脱(けぬ)いでいる。手足のバタバタが最近はますます元気になってきた。おむつ替えのとき、ぷくぷくした小さな足裏に掌を当てて軽く押すと、ここぞとばかりに蹴り返してくる。その力が日増しに強くなる。バスタオルを赤ん坊のおなかの部分にだけかけてやった。

今日こそ佳香(かこ)さんという女性に会いにいこう。

きのう、夜の預かりもやっている無認可の保育園をのぞいてきた。想像していたよりもずっとよかった。職員は感じよかったし、部屋も広く明るく、なにより清潔だった。

夕方数時間だけなのだから、ここならいいかも、とあたしはほっとした。まだ首も据わっていない赤ん坊を、馴染みのない場所に預けるのが不安だったのだ。

区でやっている駅前の一時預かりは、安いけれど夕方には終ってしまう。第一、一歳児からだからこれは問題外。三人の子を育てたお義母さんに預けるのが安心なのだけれど、なかなかうまい口実が思いつかない。

クラス会があるので――というのはこの間使ったばかりだし。なにより困るのは、佳香さんを訪ねるのはウィークデイの、しかも日が暮れてからということ。慎さんの残業の日を狙うしかない。

あれこれ迷っているうちに、おにいちゃんが家出してからもうすぐ五ヵ月になる。

次回更新は4月22日(水)、20時の予定です。

 

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