とりわけ彼女のお気に入りが脇田にある鍛冶の工房である。そこで何が作られているのかということよりも、真っ赤な鉄の塊を叩くたびに飛び散るおびただしい量の火花が何とも珍しく、また美しくてたまらなかったのだ。

「ひめは本当にここがお好きなのですね」

蟻がそう言いながら飯豊を馬から降ろし、揃って工房に入っていくと、職人たちは一斉に頭を下げるのだが、彼らは決してその手を休めようとはしない。

いつものように飯豊お気に入りの若き鍛冶職人、真玖根(まくね)がことさら多くの火花を散らして彼女を喜ばせる。

「ああ、なんて美しいのかしら」

飯豊は工房の熱気に頬を火照(ほて)らせながら、いつまでもその光景に見とれるのであった。彼女にとって、この頃が憂いとは無縁の、もっとも平和で穏やかな時期であったのかもしれない。

「こうして工房が活気に溢れ、ひめがいつでも自由に見に来られるのも我が一族の繁栄があってのこと。そのことをゆめお忘れあるな。だからこそ、ひめにはもう少しまつりごとを学んでいただきたいのです」

蟻はそう言うが、飯豊はまつりごとの話は好きではない。しかし、蟻とともに馬上にあるときには必ずといってもいいほどに彼の説教じみた話を聞かされる。

「ではなぜ、倭国にとって鉄が貴重なのかをひめはご存じか」

「それは……」

「何といっても田畑を耕すのに、硬い鉄の農具がなくてはなりませぬ。それと戦の際の太刀や鎧、兜も敵からの攻撃をかわすのに必要です。人を養う力と武の力、これがまつりごとにおいて大いなる力の源となるのです」

「でも、鉄は本来、大王(おおきみ)がお分け与えになるものではなかったの?」

「その通り。しかし我が祖父、ソツヒコ様は、その類まれなるお力によって大王家とは別に鉄の原料を入手し、さまざまな物づくりの道筋を立てられたのです」

 

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