今を遡ること千六百年余――

まだこの国が「倭」と呼ばれていた時代、国を統(す)べる大王(おおきみ)といえども絶対的な権威を有していたわけではなく、まつりごとは有力豪族たちの合議によって進められていた。

王権は未だ盤石ではなく、力の均衡は常に変動していた。

一方、海の向こうでは、高句麗の南進により朝鮮半島は絶え間ない戦乱に晒さらされ、倭国は、鉄資源の供給を担う百済や伽耶諸国との関係を維持すべく、幾度となく兵を送っていた。

この激動の時代にあって、葛城氏は古来王権の軍事と外交の要(かなめ)を担い、その功績と影響力によって莫大な利権を掌握するに至る。

さらに大王家との姻戚関係を築くことで、名実ともに倭国屈指の勢力として君臨することとなった。

この物語は、そのような葛城氏と大王家、両方の血を受け継ぎ、数奇なる運命に導かれながら、やがて後世「飯豊天皇」と呼ばれ、我が国初の女帝として歴史書にその名を遺した一人の女性の生涯を描いたものである。